2016年3月26日土曜日

リリーのすべて



<あらすじ>
1926年、デンマーク。風景画家のアイナー・ベルナーは、

肖像画家の妻ゲルダに頼まれて女性モデルの代役を
務めたことをきっかけに、
自身の内側に潜む女性の存在を意識する。
それ以来「リリー」という名の女性として
過ごす時間が増えていくアイナーは、
心と身体が一致しない現実に葛藤する。
ゲルダも当初はそんな夫の様子に戸惑うが、
次第にリリーに対する理解を深めていく。
(映画.comより)

トム・フーパー監督作品で、
渋谷駅の地下広告の艶やかさに惹かれて見てきました。
同監督作品では英国王のスピーチ、
レ・ミゼラブルをこれまでに見ています。
見た目のエレガンスさは
過去作に通ずるものがありますが、
内容はよりシビアでビターな内容でした。
ハリウッドのビッグバジェットで
本作が作られる状況から鑑みるに、
ジェンダーに関する理解は日本よりも
海外の方が進んでいるのだなーと改めて思いました。
ただ本作の難しいところは性の自己実現自体が
社会に迎合する形に見えなくもないというところ。。
1930年代ごろの実話がベースなので
当然といえば当然なんですが、
社会の同調圧力への抵抗よりも
自身の葛藤にフォーカスしている点を
どう考えるかで本作の好みは別れるような気がします。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

冒頭、雄大な自然のショットから始まるんですが、
これは主人公であるエイナーが描く題材になっています。
トム・フーパーはこれまで35mmで撮影してきていますが、
本作ではデジタル撮影を採用しています。(1)
ゆえに全体にバキッとした画になっているので、
自然描写はかなりカッコよく見えました。
ただ、主人公夫婦の職業が画家ということもあり、
絵画のようなキメのショットも多いんですが、
時代背景を考えると、このあたりはフィルムの方が
相性よかったのでは?と思います。
実際、同時代で近い題材のキャロルは
フィルムゆえの味わいがありましたし。
彼は風景画家として有名で、
一方の奥さんであるゲルダは肖像画家。
ゲルダはエイナーほど売れっ子ではありません。
ある日、モデルが不在の中、ゲルダがオモシロ半分で、
「ユー、モデルやっちゃいなよ!」と言って
ストッキング、シューズを履き、
ドレスを上から羽織ったことで
眠っていた、抑えていた女性の部分が覚醒します。
その後、本各的に女装し、自らをリリーと名乗り出して、
どんどん女性への憧れが強くなり、
実際に活動が活発になります。
とにかくエディ・レッドメインの演技が素晴らしくて、
エイナー/リリーのトランスジェンダーのボーダー具合を
一つ一つの細かい仕草で見せてくれます。
彼の中の女性の部分の覚醒具合も、
その演技から伝わってくるというね~
とくに最初の衝動の描き方の艶かしさが
相当グッときました。
トランスジェンダーはレズビアン、ゲイ、バイセクシャルと
まとめてLGBTとして議論されることが多いと思います。
それは見た目と中身の不一致という
非常に大きな括りであって、
実際に抱える問題はそれぞれ異なる
ということの理解が深まりました。
いわゆるLGBの方は自らの性を受け入れた中で、
好きになる対象が同姓(もしくは両性)です。
そこで同姓を好きになることへの社会からの
差別、圧力に対して戦うといった構造の映画が多い。
一方のトランスジェンダーは
自らの性を受け入れることができず、
「異性になりたい」という願望を持つんだと思います。
したがって、本作でも社会との軋轢というよりは
内面にフォーカスし、如何にして自らの性と向き合うのか?
という点が興味深かったです。
性の内面的なことは1人で抱えがちですが、
本作では1人の中で性がトランスするというより、
リリーという別の女性人格が存在する
二重人格として描いています。
これによって客観性を高めて、
リリーとどのように向き合っていくべきかを、
ゲルダも一緒に考えることができるようになっています。
もっとも観客の目線に近いのはゲルダですので、
観客の感情移入の導入も担っているわけです。
ゲルダとエイナーのある種の共犯関係も興味深かったです。
エイナーの苦悩を純粋に受け入れた
単なる無償の愛というわけではなく、
自身の画家としての成功もリリーがきっかけになっているからです。
ゲルダがエイナーの幼馴染に恋に落ちるくだりは
別になくてもよかったとは思います。
ヴィジュアル面でも結構強烈な場面が多く、
エディ様の「息子」がほぼ出ていて、
よく子どもの頃にしていた、
「息子」をまたに挟んで女子化するのは
万国共通の文化なんだと思ったり。
特にキツかったのは治療のシーン。
男性であることをキープするために、
股間に放射線を当てるのとか、
逆に女性になるための治療とか。
ここまでして得るものっていったい何なんだろうか…
と考えさせられました。
ラストは最初のショットが、
うまく活きる形になっていて好きでした。
キャロルと並べて見ると良いと思います。

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