2016年3月1日火曜日

神奈備

神奈備


佐々木中作品ということで読みました。
発売当時に買ったんですが、
読むのを後回しにしてまって今になりました…
というのも佐々木さんの作品は論説、小説を含め、
それなりに読んできているんですが、
小説の文体にかなり抵抗があったからです。
しかし、最近の小説はかなり読みやすくなってきいて、
前作の短夜明かしはかなり好きな作品でした。
本作は神道の話で2人の女性とのエピソードから、
日本における神の存在、信仰を描いたものです。
タイトルの「神奈備」は、
上代、神霊の鎮座すると信じられた山や森のことです。
主人公は2人の女性のことが好きになり、
タイミングは異なるものの、
両方の女性と神奈備である奈良の三輪山を訪れます。
佐々木さんはいつも通りの調子で、
独特の文体と艶やかな表現で、
その風景を丁寧に描写していきます。
僕が描写として好きだったのは瞳を見つめる表現。
人の瞳をそこまで細かく見たことがないけれど、
擬音を交えた表現がしっくりきました。
2人の女性は対象的な存在で、
最初に登場する美由は盲目的に神の存在を信じている、
いわゆるパワースポットが大好きな女性。
神があなたを呼んでいるとか、
前世は2人は強い繋がりがあったとか。
僕が一番嫌いなタイプの女性なんですが、
そのカウンターとなるのが 後半に出てくる彩。
彼女は大学の日本史学科の博士課程で勉強していて、
日本における神への信仰に対して、
明晰な論考を披露していきます。
彩が佐々木さんの見解を代弁しているんだろうけど、
京都弁の話し言葉で書かれているので、
するすると読めて勉強になりました。
(本作を読むまで寺と神社の違いも
はっきり理解していないレベルでした。。)
近年ナショナリズムの機運が高まる中、
「日本伝統の」とか「日本古来の」といった
言葉をよく耳にするようになりましたが、
ゼロから生まれた日本のオリジナリティは幻想で、
あくまで近隣諸国とミックスアップされて
形成された世界なのである。
という態度には心底納得しました。
坂口安吾論が最近出たようなので、
そちらも早く読みたいと思います。

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