2016年3月5日土曜日

壁 (新潮文庫)


昔、教科書で読んだような、読んでないような、
そんな曖昧な記憶の中で改めて読んでみました。
本作は短編集で、そのうちの1つは
芥川賞(S・カルマ氏の犯罪)を受賞しています。
1951年に書かれたものなんですが、
時代を感じさせないぶっ飛び具合がオモシロかったです。
最近聞いたジブリのpodcastで中村文則氏が述べていた、
「あらゆるメディアの中で小説がもっとも自由である」
という話とも通じる内容でした。
どの話にもタイトルになっている「壁」が
存在しているんですが、
お話によって、その存在意義は様々です。
壁は世界を定義するものとして描かれているかと思います。
つまり、壁によって内側/外側が生まれ、
壁を挟んでどこにいるかで、
社会においてどういった人間か決まっていく。
いずれの話も「人」や「もの」の実体性とは?
というテーマなんですが、
アプローチが異なるのが好きなポイントでした。
その中でも特に好きだったのは「洪水」、「事業」です。
「洪水」はある日突然、労働者階級の人間が液状化していき、
世界が不安定な状態に陥っていくという話。
意思決定する人間による暴挙をあざ笑うかのように、
液状化した人間たちが跋扈する世の中が楽しかったです。
「事業」は食肉加工業者が食肉ネズミの事業成功から、
人肉事業へとシフトしていく業者の話。
カニバリズムの価値観をこれまたウィットに飛んだ内容で
正当化していくアクロバティックな論法で
描いていてオモシロかったです。
現実逃避にピッタリの作品です。

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