2016年9月24日土曜日

怒り



<あらすじ>
犯人未逮捕の殺人事件から1年後、
千葉、東京、沖縄という3つの場所に、
それぞれ前歴不詳の男が現れたことから
巻き起こるドラマを描いた。
東京・八王子で起こった残忍な殺人事件。
犯人は現場に「怒」という血文字を残し、
を整形してどこかへ逃亡した。それから1年後、
千葉の漁港で暮らす洋平と娘の愛子の前に田代という青年が現れ、
東京で大手企業に勤める優馬は街で直人という青年と知り合い、
親の事情で沖縄に転校してきた女子高生・泉は、
無人島で田中という男と遭遇するが…
映画.comより)

吉田修一原作で豪華俳優が一同に会した作品で、
64と並んで今年最注目の邦画かと思います。
64の悪夢を思い出して少し不安になりましたが、
語りの手際よさとサスペンスの見せ方が抜群でした。
人をどこまで信じられるのか?というテーマが
今の社会の雰囲気とマッチしていて好きでした。
犯人は誰なのか?にかなり重心がかかっているので。
原作未読で見た方が楽しめるかもしれません。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

冒頭、犯行現場の様子を描いていくんですが、
その陰惨さからしてテンションが上がりました。
派手にグロいという訳ではなく静かに狂っているといった感じ。
犯人の名前や姿は分かっていて、
全国指名手配がかかるんですが犯人に似ている男が3人登場。
それぞれの物語をパラレルに描いていく作りになっています。
本作の一番オモシロかったところは、誰が犯人なのか?
というサスペンスの部分です。
容疑者候補の3人とも積極的に過去を語ることはなく、
しっかりと演出と撮影で見せてくれます。
僕が一番グッときたのは弁当を使った演出。
犯人の部屋はゴミ屋敷なんだけど、
弁当の空箱や空き缶が綺麗に並べられていました。
その後、綾野剛演じるがコンビニで弁当を買った後、
しきりに袋に入った弁当の向きを気にする仕草を見せるんですね。
こういった何気ない演出を3人で繰り返していき、
「やっぱこいつでしょ?!」と疑念を抱かせていく。
また何回か犯人の犯行の様子を映像で見せてくるんですが、
絶妙なカメラワークで見えそうで見えない。
この2つの組み合わせで犯人への興味が持続していく、
サスペンスの見せ方が上手いなーと思いました。
(あと坂本龍一のノイズを含めた音楽も最高最高)
3つの物語はクロスすることはなく独立しているんですが、
これらの語り口の手際の良さも抜群で混乱なく見れました。
(東方神起を使った場面転換の演出はフレッシュだった!)
ただ物語のオモシロさのレベルに差が結構あって、
僕は沖縄シークエンスが圧倒的に好きでした。
原作未読なのでこの沖縄の描写が、
どこまで原作に忠実なのかは分かりません。
ただ、今日本では何に「怒り」を抱くべきなのか?
ということをダイレクトに描いています。
若い広瀬すずがここまで体張っているのに、
大人が他人事でいれるのか?と問われた気がしました。
このシークエンスが素晴らしくなったのは、
もちろん広瀬すず、森山未來といった有名俳優の力もありますが、
佐久本宝という本作で抜擢された彼の存在感が
非常に大きな役目を果たしていると思います。
彼の悩む姿が見ていて心が痛むんですよね、、純粋がゆえに。
彼が抱えた「怒り」の矛先も悲しい結末でした…
前述した通り、本作は他人への態度、
さらにいえば他人をどこまで信用するか?という話。
なんでもレッテルを貼ってカテゴライズし、
自分で考えることなくその枠に乗っかり「そういう人」と認識する。
「実際に向き合ってこそ分かることがあるでしょう!」
と言ってしまえばクサいなーと思う人もいるかもしれませんが、
今映画で伝えなきゃいけないくらい、
この感覚が当たり前でなくなっているのかなと。
東京のシークエンスが必要以上に同性愛描写を
強調しているのはこの辺も関係しているんだと思います。
つまり、自分と異なる考えの人とは対話しないし、
想定した枠から飛び越えたものを拒絶する人が多過ぎるなーと。
ラストの宮崎あおいのカメラ目線のショットは、
こちらの心を見透かされているような気持ちになりました。
作品の中に「怒り」を探すというより、
自分の「怒り」はいったいどこへ向かうのか?
また、自分に降りかかる他人の「怒り」にどう対処していくのか?
などを真面目に考えたくなる作品。

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