2016年9月3日土曜日

私の消滅

私の消滅


中村文則最新作。
Aで若干の消化不良を起こしていたので、
最新作ということで楽しみにしていました。
僕は去年の冬、きみと別れにおいて、
中村さんのミステリーを語るスキルの高さを知りましたが、
本作はさらにその先を提示した傑作だと思います。
学術的であると言っていい現実の話と、
複雑に計算された物語が有機的に絡み合うことで、
今までに読んだことのないような読後感を味わいました。
現実の話の点において今回フォーカスが当たっているのは、
心理学とくにマインドコントロール、洗脳といった話。
小説にこういった現実の話を取り込むこと自体は、
手法として超新しいというわけではないと思います。
ただ推理小説の中に実在した犯罪者の話を書きつつ、
そのプロファイリングまでも行ってしまう、
中村さんの「どこまでいくねん!」感が読んでて
めちゃめちゃオモシロかったです。
心理学の本を率先して読むかと言われれば、
なかなか難しいところですが、
こういう風に物語内に組み込まれれると
俄然興味を持ってしまいます。
そして、本作がぶっちぎりで凄いのは物語の構造。
冒頭のツカミの部分から嫌〜な感じ満載で、
自分が一体誰なのか分からなくなっている主人公と、
その主人公がいるコテージに置かれた手記。
この2つが大きな鍵を握っていて、
中盤あたりまでは物語に没入するんですが、
主人公と手記の間の違和感に気づき、
全く想像していない方向へと転がっていく瞬間が
めちゃめちゃスリリングだし、
「こんな悪夢みたいなことよく思いつくな〜」と。
しかも前半の部分を読んでいる読者が、
作中で洗脳される人と同じ過程をなぞってしまう、
鬼畜っぷりにゾクゾクしました。
中村さんの作品を読んでいつも思うのは独特の不可避感。
あらかじめすべての事態がこうなるようになっていのか、
と読者が思ってしまうほどに説得力が強いし、
その濁流に巻き込まれたくて読んでいる気がします。
これから1つ前の作品である、
「あなたが消えた夜に」を読みます。

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