2016年9月11日日曜日

グッバイ、サマー



<あらすじ>
女の子のような容姿でクラスメイトから馬鹿にされ、
多くの悩みを抱えている画家志望のダニエル。
ダニエルのクラスに目立ちたがり屋で
変わり者の転校生テオがやってくる。
周囲から浮いた存在同士、意気投合したダニエルとテオは、
息苦しい毎日から脱出するため、ある計画を思いつく。
それはスクラップを集めて、
自分たちで作った「夢の車」で夏休みに旅に出ることだった。
映画.comより)

ミシェル・ゴンドリー監督作品。
昨年開催された美術館で展覧会に行って、
日本未公開の「背の高い男は幸せ?」という作品を見て、
しかも上映後の監督のティーチインまで参加したので、
特別思い入れのある監督の1人です。
DIY精神全開のミシェル・ゴンドリー作品!
といった内容で抜群にオモシロかったです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

ダニエルは3人兄弟の真ん中で、
次男と同じ部屋で暮らしているんですが、
その部屋で寝ている彼のショットから映画はスタート。
このファーストシーンからして最高で、
彼らの部屋にはラインが引かれていて、
次男とダニエルの部屋に境界線が存在する。
次男が几帳面で整理整頓されているのに対して、
ダニエルの方は机は画材だらけで、
床に服を撒き散らしているという様子から、
彼の溢れ出る想像力を想起させる素晴らしい演出。
ダニエルの両親は共働きで不仲、
しかも母親はよく分からない宗教にハマっている。
学校では見た目が女の子っぽいことから、
男子とはそこまで打ち解けられない一方で、
好きな女の子からは異性として認識されない。
家庭、学校、どこにも居場所を見つけられない彼が、
転校生のテオと仲良くなっていくことで、
終わらない日常からエスケープし躍動し始める姿が、
見ていてとても愛おしく感じました。
同じ学年なんですがテオはメンターのような役割で、
彼がダニエルに初めに薦めるのは絵の個展を開催すること。
ダニエルの絵はパンクバンドに傾倒する兄や、
ロックスターの絵を描いているんですが、
テオに背中を押されて画廊に持ち込んで見事採用。
これで皆に認めてもらえる!と思いきや誰も来ない…
満たされない承認欲求を抱えながら、
ダニエルたちが夢中になるのは、
ジャンク品で車を作るということ。
ゴンドリー作品においてDIYは1つの大きなファクターで、
実際、彼がティーチインで強く主張していたのは、
人類皆クリエイターであり、もの作りは尊い行為なのである
ということでした。
とくに若い頃にものを作ることを重要視していて、
それゆえに世界中をワークショップで回っているとも。
本作はまさにその考えを具現化したものだと思います。
少年×DIY×旅という3つの要素を設定したことで、
すでに本作は勝ったも同然。オモシロくならないはずがない。
持てる知恵を総動員して自分たちが
やりたいことを獲得していく、
「自分の意思次第でなんだってできる!」という
思春期独特の万能感が眩しかったです。
車だと許可が降りないから、
小屋にカムフラージュするという発想もナイスで、
(坂口恭平氏が提案しているモバイルハウスそのもの)
警察との遭遇シーンはまさかの展開で笑ったし、
その手前の野グソシーンも最高最高!
監督の強いアナログ嗜好を感じる演出で、
いくらアンチデジタルだとしても、
そこまでしなくてもいいやん…と思いました。
一番笑ったのは1泊目で私有地に侵入してしまい、
その家に招待されたシークエンス。
寝室を丁寧に1人ずつ与えてくれるんですが、
そこでダニエルがシャキーラを恐れるシーンで、
劇場は爆笑に包まれていました。
その後のホラー映画のような展開も良かったです。
こういう笑えるところが多い一方で、
真剣なアイデンティティーを巡る
会話が随所に散りばめられていました。
その会話を踏まえて彼が決断する断髪。
女子と間違われる世界からの卒業。
ここでまさかの日本人が登場し、
それが散髪とマッサージを提供する謎の風俗店という。。
一体どういう設定なんだと思いつつも、
逆モヒカンは笑ってしまいました。
後半ではロマ族という社会派の突っ込んだテーマがありーの、
若者ロードムービーお約束の仲違いが発生。
ここでそこまでシンミリとせずに、
共通の敵をさっと持ってきて、
比較的早めに2人の物語に戻っていくところが好感大でした。
(過剰なウェットさは本作に不要だと思うから)
ラストはなかなかアクロバティックな展開だなーと思っていたら、
さらに残酷な現実が彼らを襲ってしまう。。
この対比が心に深く残りました。
大人の都合で子ども同士が疎遠になるほど、
切ないことはないのだけれど、
大人になったときに当時を思い出し、
良き思い出となればそれで良しなのかもしれません。

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