2016年9月18日日曜日

エル・クラン



<あらすじ>
裕福なプッチオ家は父と母、5人の子どもたちと幸せに暮らしていた。
ある日、二男が通う学校の友達が誘拐され、姿を消す。
以降、金持ちだけを狙った身代金事件が多発し、
近所の住民たちが不安な毎日を送っていた。
そんな中、プッチオ家の主のアルキメデスは、
妻の作った夕食をなぜか2階にある鍵のかけられた部屋に運ぶという
不審な動きをしていた。
映画.comより)

予告編の「殺し屋家族!」というのを見て、
興味があったので見てみました。
アルゼンチンの実話ベースの映画なんですが
1980年代の政治事情を交えつつ、
本当にこんなことが起こったのか?
と思ってしまうぐらい、
ショッキングな内容でオモシロかったです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

アルゼンチンの政治情勢を実際の映像を交えながら、
冒頭で共有する形で映画はスタート。
この政治情勢の紹介がそこまでスマートでなくて、
これから見る人はwikiってから見た方が、
話は飲み込みやすいかもしれません。
誘拐を裏家業とする一家が主人公。
予告編だと家族全員共犯のように見えますが首謀者は父親。
この父親の超悪そうな顔がたまりません。特にギョロ目。
そして、その顔通りというべきか行うことは外道そのもの。
手口としては裕福な親の子どもを誘拐して、
身代金を巻き上げるという手法。
しかも、身代金を受け取った後は基本的に殺してしまう。
誘拐の大義としては軍事政権をサポートするということで、
「国のため」という建前があるんですが、
結局私利私慾にまみれていることは、
物語が進むにつれて明らかになってきます。
家族の中で一番不幸な目に会うのは長男。
彼は父親の誘拐家業をなんとなく手伝ってしまうんですね。
しかも、自分の友達を誘拐するという…
父親の店を譲ってもらったり、誘拐の報酬をもらったりして、
誘拐への抵抗がなくなっていくのが見てて辛かったです。
ただ常に彼の顔からは罪悪感がヒシヒシと伝わってきて
悔恨の気持ちを吐露させない演出が良かったと思います。
長男以外の家族は無関係とはいえ、
人質と一つ屋根の下に暮らす異常事態の中で
生活している彼らが父親の悪行を全く知らない訳もなく。
本作では直接的な拷問を含めた暴力はあまり見せないんですが、
普段の生活でたまに聞こえる壁越しの叫び声が超怖かったです。
犯罪に巻き込まれることに耐えきれなくなった三男は、
まだ中学生くらいなのにラグビーの試合で
訪れる他国に亡命しちゃうんだからすごい話。
途中でアルゼンチンが民主化してからは、
逆に弱い立場におかれた軍事政権側を
ターゲットに誘拐を再開。
ここから父親が築いた悪の帝国が崩壊していきます。
本作でオモシロかったのは音楽の使い方。
KINKSのSUNNY AFTERNOONがテーマ曲として、
繰り返し流れますし、誘拐シーンでも比較的ポップなものばかり。
そして実際に人質の叫び声をかき消すために、
1日中同じ曲をかけ続けるシーンが一番狂ってて最高でした。
後半にかけて対立する父と長男のバトルが凄まじく、
とくに父が誘拐失敗してブチ切れるシーンが圧巻。
あえて鏡ごしに父親の顔を見せる演出がナイスでした。
あと、本作は印象的なワンショットが多く、
予告編で使われているシーン然り、
ラストのあまりにショッキングな展開然り。
前者は日常と地続きの暴力だし、
後者はVFXの恩恵を含めてその躍動に驚きました。
実話ものにありがちなんですが、
映画が終わったあとに出るテロップで伝えられる、
その後の登場人物の人生の方が衝撃的という…
とくに長男の話は超キツかったですね。。
事実は小説よりも奇なりが体験できるオモシロい映画。

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