2016年1月23日土曜日

の・ようなもの のようなもの



東京の下町。落語家一門の出船亭に入門した
志ん田(しんでん)は、師匠の志ん米(しんこめ)から、
かつて一門に在籍していた志ん魚(しんとと)を
探してほしいと頼まれる。
志ん米は、一門のスポンサー的存在で、
志ん魚を贔屓にしている女性会長のご機嫌をとるため、
もう一度志ん魚を高座に引っ張り出そうと考えていた。
志ん田は、師匠の弟弟子である志ん水(しんすい)や
昔の門下生を訪ね歩いて手がかりを集めようとするが、
なかなかうまくいかず……。

しっかり予習完了したので見てきました。
ホント見といて良かったー!
と心底思うくらい前作の流れの上にあり、
その流れの引用の仕方が愛に満ちあふれたもので、
続編とはかくあるべし!という仕上がりで最高でした。
時間が経ったあとの続編って、
ノスタルジーひたりまくりのものが多かったりするんですが、
「またあいつらに会える!」という喜びを残しつつ、
世代交代な要素もきっちりあって素晴らしかったです。
もし見に行くつもりの方がいれば、
絶対に前作を見てから見に行った方がイイと思います。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

本作は前作から同じ時間が経過したという設定になっています。
冒頭、カップルの2ショットに割り込むところを
引きのワンショットで映し出す、
前作と同じ方法で映画が始まります。
ただし、そこに現れるのは志ん魚ではなく、
松山ケンイチ演じる志ん田。
彼もまた真打ちを目指す落語家のようなもので、
内弟子として師匠に尽くす日々を送り、
先の見えない中、毎日を過ごしています。
志ん田は一度プログラマーとして働いたあとに、
落語家となったため、スタートは遅い部類に入ります。
自分は30歳で、兄弟子は23歳。
師匠の娘のことが好きなんですが、
具体的に行動を取る訳ではありません。
師匠は落語の稽古を付けてくれる訳でもありません。
そんな何者にもなれない若者が、
夢 a.k.a 呪いを追いかけることとは?が
テーマとしてあると考えています。
前作は若者にフォーカスした作品だった訳ですが、
本作は夢をあきらめ年老いた志ん魚が入ることで
その点に関する、ある意味残酷な現実も映し出されます。
この対比によって前作よりも深みが出ていると感じました。
そんなに世界は甘いものではないし、
それ相応の覚悟を持って生きねばならないと。
ただ、そこを重たく描く訳ではなく、
そんな先の見えない状況の中でも、
目の前のことに必至で取り組むことが大事だし、
自分が楽しむことが必要であることが
よく分かる作りになっている点が好きでした。
(志ん魚の仕事が便利屋というのは、まさにそれを体現)
あらすじにもあるように、
志ん魚を高座に引っ張りだすため、
志ん田は彼と距離を縮めていき、
僕らが前作で知った志ん魚の人間的魅力に惹かれていきます。
別になんてことない日常なんだけど、
2人がお互いを支え合う姿の多幸感たるや…
志ん田がキレイ好きという設定が効いていると思います。
(丁寧に暮らす男子はア(↑)コガレの対象)
僕が好きだったのは、
前作オマージュの天ぷらそばのシークエンス。
あぁ、なんかそういう楽しさあるよなーと共感しました。
個人的には、志ん米師匠からもらったエビ天を
志ん魚が今度は志ん田にあげれば良かったなーとは思いました。
(奢るという形で間接的に実現しているんですが、、)
胸が痛くなるのは後半で志ん魚が久々に落語を披露するシーン。
彼の十八番とされる「親孝行」を
一席打つんですが、鬼スベリする訳です。
年を取った大人が恥をかく姿を見ていると
自分も将来こういうことあったらどうしよう…
と思ってしまうので辛かったです。。。
ここでの内海桂子師匠の前フリの演出は最高だったし、
ラストの展開でもきっちり活かされているのが良かったです。
志ん魚の醜態を見た師匠、兄弟子は彼に大役を任せられないとして、
志ん魚に高座を頼むことをヤメてしまいます。
これを伝えるのが、でんでんなんですが、
近年ハードな役が多過ぎて借金取りにしか見えませんでした…!
終盤は志ん田が自分のために道を選ぶか、
落語で人間味をさらけ出すことの大切さを
教えてくれた志ん魚への恩義を選ぶか、
という究極の選択を迫られます。
このラストにかけては最高なシーンのつるべ打ち!
結局志ん魚が舞台に立つことになるのですが、
ここで彼は会長が所望する創作ネタの「デメキン」ではなく、
古典である「黄金餅」を選択します。
この「黄金餅」の中には東京を南下する様子を
口上する場面があるんですが、
それは前作の終盤で志ん魚が女の子にフラれたあと、
歩いて帰る道中で唱えていたものなんです!
あの未来の行く末が見えなかった青年が、
拙いながらも、「黄金餅」で観客をロックする…
最高に決まってんだろう!と胸を熱くした次第です。
また、志ん田は志ん魚からデメキンを授かり、
師匠の墓の前で1人で落語を始めます。
この2人の落語している姿が交互に描かれていくんですが、
口頭伝承文化としての落語の側面、
そして世代交代という2つの側面を
表現していて本当に素晴らしかったです。
そして、本作で触れなきゃいけないのは
最近話題の北川景子の魅力です。
天真爛漫っぷりが炸裂していて鬼キュート!
僕が一番好きだったのは終盤で、
木の陰からひょこっと出てきて、
「ヘタクソ!」と志ん田に放つシーン。
なんや!可愛さが度を超してるやろ!
取り乱しましたが、他にも森田監督の過去作に
出ていた豪華俳優の方々がキャメオ出演で出ているのも
見ていて「おっ!」となるし楽しかったです。
また、前作が固定の引きのワンショットが多かったですが、
本作はそれも踏襲しつつ、
手持ちカメラで躍動感のある画も撮っていて、
それが志ん田と志ん魚が過ごす谷中の狭い街並みと
マッチしていて上手く機能しているように思いました。
最後は 尾藤イサオによる
シー・ユー・アゲイン雰囲気 がかかって
完全にサムズアップ!
とりあえず前作であるの・ようなものを見て気に入れば、
本作を見て、その世界観にどっぷりハマれると思います!

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