2016年1月13日水曜日

母と暮せば



<あらすじ>
1948年8月9日、長崎で助産婦をして暮らす伸子(吉永小百合)の前に、
3年前に原爆で死んだはずの息子・浩二(二宮和也)が現れる。
2人は浩二の恋人・町子(黒木華)の幸せを気にかけながら、
たくさんの話をする。その幸せな時間は永遠に続くと思われたが…
映画.comより)

DVDながらも東京家族小さいおうちと、
近年の作品は見ている山田洋次監督作品
ということで昨年の映画ですが見ました。
上に記載したあらすじさえも知らず、
ニノとサユリが出てる映画でしょ〜くらいの
軽い気持ちで見たら、
ところがどっこい戦争ファンタジー物語だったので驚きました。
笑わせる部分は最高に笑わせてくれるけれど、
悲しくなる部分はしっかり悲しく辛い話でオモシロかったです。
昼間に見たからか、劇場はおじい、おばあで一杯
しかも、いちいちリアクションが最高最高だったので、
とても楽しく映画を見ることができました。
(ただ、携帯電話の電源切ってないおじい、おばあ多過ぎ!)
死者と残された人、そしてファンタジーという点で考えれば、
黒沢清監督の岸辺の旅と非常に近い構造です。
岸辺の旅は死者の描写が抜群に優れていたのに対して、
本作はそこが物足りないなーと感じました。
しかし、そこを補うのは本作が担うメッセージ。
今年公開された戦争映画の中で原爆を正面切って
描いたのは本作だけですし、
忘れること、忘れてはいけないことの
書き分けが丁寧かつ愚直という印象を持ちました。
今年は昔のクラシックをたくさん見るという目標があるので、
山田監督の映画も少しずつ見たいと思っています。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

本作はツカミが抜群の映像から始まります。
浩二が学校へと向かうところなんですが、
1950年代頃の日本映画のような白黒の映像で始まります。
単純な白黒というものではなく、
小津、木下、成瀬などといった日本の古き良き映画の中に
二宮くんがいるという時空の歪みを感じさせるレベル。
からの原爆ドーンで浩二が死んでしまい、
3年後に幽霊となって現れ、伸子との交流が始まっていきます。
この浩二の幽霊としての登場シーンも見事で、
視点の誘導が上手くて気づいたら画面の右隅に
幽霊となって彼が現れていました。
映画で描かれる舞台は非常に限定されていて、
彼らの住む家と教会のみになっています。
そして回想シーンも少なくなっているので、
役者の力量次第で出来不出来が決まってしまう作りです。
そんな状況の中で、主演3人の演技は本当に抜群でした。
二宮くんは年末のドラマで落語家の役を演じていましたが、
(赤めだかというドラマで、これから見るところです。)
まさに落語家を思わせる、
立て板に水とはまさにこのこと!と言わんばかりに、
幽霊となって現れてはノンストップでしゃべり続けます。
密室系でひたすら説明されると
つまんないなーと思ってしまうことが多いんですが、
あそこまで朗々と語られると聞いてて楽しかったです。
一方、その話の受け手であるのが母役の吉永小百合。
僕の中では品行方正というイメージが強かったんですが、
本作ではいい感じにすっとぼけた シーンが多くて、
そこに好感を持ちました。
とくに上海のおじさんとの掛け合いは、
どの場面も素晴らしく大好きでした。
(上海のおじさんを演じているのは、加藤健一さんという人で、
映画出演27年ぶりだそうです。。もっと色んな役で見たい!)
そして、本作の影の主役である黒木華。
観客は生きている彼女に一番感情移入しやすく、
そして彼女の立場で戦争の死者と向き合うことになるため、
非常に重要な役目を担っています。
前作の小さいおうちでも良かったんですけど、
本作は数段演技のグレードが上がったというか、
山田監督の演出のたまものなのか、
この町子というキャラは彼女しか想像できない!
というほどの実在感がありました。
印象的だったのは登場シーンで吉永小百合の草履の鼻緒を
彼女が 結ぶシーンがあるんですが、その仕草の自然さに驚きました。
(長崎の街の美しさも影響してるとは思いますが …)
本作を見て僕が最も印象に残ったのは、
メンデルスゾーンのレコード(音楽)に代表される、
文化を享受できる喜びについてです。
回想シーンは限りなく少なくなっていますが、
浩二が指揮するシーンや歌うシーンは
きっちりと描いていましたし、
浅野忠信のエピソードは個人的に相当グッときました。
(ちなみに劇伴は坂本龍一が担当)
当たり前にあるものが当たり前でなくなる戦争において、
一番最初に切り捨てられる文化が、
どれほど尊くて大切なものなのか改めて考えさせられました。
また生かされた側の苦悩という話も、
今となっては分かりにくくなっていますが、
精一杯生きるしかないよなーと思ったりもしました。
エンディングが割と衝撃的な展開で、
キリスト教のプロバガンダか?!
と思わず言ってしまいそうになるけれど、
このファンタジーな世界観にはちょうどいいのかなと
自分を納得させて劇場を後にしました。

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