2016年1月16日土曜日

バーバリアンズ セルビアの若きまなざし


<あらすじ>
仕事も目標も持たず退屈な日々を送っていた仮釈放中の青年ルカは、
仲間たちと地元のサッカーチームを応援しながら
飲み騒ぐことだけが唯一の楽しみだった。
ある日、自宅に来た社会福祉士により、
コソボ紛争で失踪した父が生きていることを知る。
しかし、母はそのことを隠し続けていた。
やがて首都ベオグラードでコソボ独立反対デモに参加したルカは、
ただ暴れるだけの仲間たちの姿に違和感を覚え、
父に会うためバスに飛び乗る。
映画.comより)


ポスターに映る若者の荒々しさに惹かれて見てきました。
セルビアが舞台ってことで相当ヒリヒリしたもの、
と思っていたんですが、見た目は割とソフトな感じでした。
しかし、主人公の行き場のなさ、追い込まれ具合は、
観客の心を掴んで離さないものがあります。
セルビアと聞くと遠い海外の話と考えがちですが、
日本でも全然起こりそうな話ですし、
閉塞した村社会の若者物語として、
極めてサウダーヂに近い構造になっています。
セルビアの社会事情も少し入っていて、
知らないことだらけなので勉強したいなとも思いました。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

本作は映画の始まり方がとても好きでした。
明らかに不良と分かる格好とヒップホップな握手が映り、
主人公ルカの親友が銃の取引を行い、
廃墟のようなところで銃の試し撃ちを始めます。
そこからサッカーの試合を見に行く若者が
横並びで歌いながら行進する姿が超かっこ良かったです!
銃の取引のシーンで分かるんですが、
ルカは面倒なことに関わりたくない様子で、
限りなくトラブルを避けたい人間のように見えます。
しかし、ここから彼はどんどん退路を断たれて、
追い込まれていくのを見ていくという作り。
僕が見た回には「孤高の遠吠え」の監督である、
小林勇貴さんのトークショーが聞けたんですが、
彼いわく「不良の背中は怖い、何を起こすか分からないから」
本作では長いカットで背中を追うショットが多く、
その点を指摘されていてなるほどなーと。
(孤高の遠吠え未見なのが心底悔やまれます…)
前述したとおり社会との関わりを徐々に断たれていく姿が
物語を通じて描かれていきます。
ルカはサッカーが好きでその試合観戦シーンで、
親友が黒人選手に対して人種差別的な発言をしてしまいます。
この結果、ルカとその親友はペナルティーとして、
黒人選手の送り迎えを任されます。
この黒人選手はセルビア語を話すことができず、
チーム内でも孤立している様子で、
後半で孤立したもの同士が
お互いに寄り添うような関係が形成されていて、
見ていて微笑ましく思いました。
(ウイイレでズルするシーンが最高!)
ルカは学校で思いを寄せる女の子がいるんだけど、
その子の彼氏は地元のサッカーチームのエース。
何とか彼女の気を引きたいと思って努力するんだけど、
全く振り向いてくれません。
そこで彼が取る行動がエースを轢き逃げするっていうね〜
この轢き逃げのあっさり感とルカの顔が
妙に生々しくて、実際に事故や事件が起こった瞬間って
意外にこのぐらいドライなんだろうなと思いました。
サッカーチームのボスは街の有力者で、
この事件をきっかけに彼は孤立を深めていきます。
(彼を拉致しようとするシーンめっちゃ怖かった…)
また、彼は家族との関係もあまりよくありません。
あらすじにもあるように父親がいなくて、
母親からは父親と会うことを固く禁じられている状態。
この家族の演出も素晴らしくイイ感じに腐っているというか、
とくに母親がタバコ吸いながら、
延々TV見てるのがたまんなかったです。
日本のどこかの家庭でも全然ありそうな感じで、
地方の閉塞感は世界共通なのかなと思いました。
家族も恋も学校も上手くいかないし、
社会に怒りをぶつけたる!ということで、
ルカはデモに参加することになります。
これがセルビアを舞台にしたならではの部分でしょう。
映画内では2008年のコソボ独立にあたって、
それを援助したアメリカ大使館を襲うという
恐ろしい展開になっているんですが実話です。
友人たちと参加するものの、
彼らはスニーカーを強盗することに精を出していて、
社会に対して怒っていない訳です。
そんな状況の中、1人で大使館前へ行き、
たしなめられる姿の切なさは見てて辛かったです。
これで本当に1人になってしまったやないかと。
彼は意を決して父親に会うことを決意し、
バス運転手である父親のバスに乗り込みます。
もともと父親は息子のことを心配していると
聞いていたルカは会いにいけば、
自分のことを気にかけてくれるだろう
という最後の頼みの綱という訳です。
しかし、実際には息子のことを認識できない父親が
そこにいるだけという辛い現実が横たわっていました。
ここまで追い込まれると見ている側も
軽く嘔吐きそうになりました。
そして、この鬱屈した気持ちをどこに向けるのか、
ということが最後の山場となります。
舞台は地元のサッカーチームの昇格試合。
ルカが応援に行ったところ、
そこで待っていたのは恐ろしい報復で
ボコボコにされてしまいます。
僕はてっきりザ・トライブのような
鬱屈の爆発が待っていると思っていたんですが、
彼はなりふりかまわずサッカーチームを応援するっていう、
なんて健気な男なんだ!と感動しました。
と同時に「今のオレにはこれしかねぇ!」
という悲しさも同時に伝わってくる
素晴らしいエンディングでした。
すべてはこのためにあったと言っても過言じゃないと思います。
個人的にはザ・トライブのような、
暴発も見たかったところですが。。。
見たこと無い遠い世界が実は身近なものかもしれないという
映画ならではの体験ができて楽しかったです。

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