2016年1月18日月曜日

殺されたミンジュ



<あらすじ>
5月のある晩、ソウル市内の市場で女子高生ミンジュが
屈強な男たちに殺害された。
しかし事件は誰にも知られないまま
闇に葬り去られてしまう。
それから1年後、事件に関わった7人の容疑者のうちの1人が、
謎の武装集団に拉致される。
武装集団は容疑者を拷問して自白を強要。
その後も武装集団は変装を繰り返しながら、
容疑者たちを1人また1人と拉致していく。
そして容疑者たちの証言により、
事件の裏に潜んでいた闇が徐々に浮かび上がっていく。
映画.comより)

キム・ギドク監督最新作ということで見てきました。
今の韓国映画 においてキム・ギドク監督は
非常に重要なキーパーソンなんですが、
恥ずかしながら純粋な監督作品を見るのは今回が初めてでした。
噂には聞いてたけど、ここまでか …
というくらい見た目も中身もウルトラヘビー級でした。
監督、脚本、撮影、編集のすべてを
キム・ギドクが担当しているがゆえに
純度100%混じりっけなし!な仕上がり。
日本も韓国も中国も異なる国だけれど、
罪の手ざわり恋人たちといった作品に近いと感じました。
これらに共通するのは近年の社会の鬱屈性に
フォーカスしたものなんですが、
一筋縄でいかないキム・ギドクの角度が
そこに詰め込まれてるので辛いけど最高!と思いました。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

あらすじにもあるように女子中学生を拉致って
殺すところから始まる訳なんですが、
テープをあんな使い方して殺すのか …という
そのドライさからして恐ろしかったです。
しかし、そんなものは序の口でしかないってことが、
物語が進むにつれて明らかになります。
その中心となるのが女子中学生を殺した犯人たちが
謎の武装組織に報復される姿です。
そこそこ暴力がエゲツない映画は見ているんですが、
ギドクのエゲツなさは群を抜いていると思います。
釘付バットで頭殴ったり、
ハンマーで手を殴ったりするんですが、
その棒的なものを振る速度がまったく笑えないレベルで、
痛い!ってことが脳にダイレクトに伝わってきました。
前半はひたすら報復が続くんですが、
徐々にこの武装組織がどういった集団なのかが
明らかになっていきます。
彼らは自警団のようなもので、
社会的に抑圧されていたり、
セーフティネットから漏れてしまった人々で組織され、
お互いの私生活には干渉しないというルールに基づいた集団。
何者でもない彼らは軍隊や国家警察のコスプレをして、
「世直し」という形で日頃の憂さを晴らすかのように
中学生を殺した集団をいたぶりまくります。
普段は社会的な弱者である彼らが権威に変装して、
エゲつない暴力をふるうことは
強烈な悲劇が喜劇となっているかのような矛盾を感じました。
本作の凄いところは、
各メンバーが日々の生活でウザいと思っている人間を
1人の人間に演じさせているということです。
つまり、それぞれ異なる問題は抱えているけれど、
自分の思い通りにいかないのは他人のせいという考えは
すべて同じであると露骨にヴィジュアルで見せてくるんですね。
少なくとも僕はこんな演出を見たことがなく、
新たな発明なのでは?と思っています。
また、この1人を使って物語の因果関係を
完結させる構造にもなっていて驚きました。
さらに中学生殺しの犯人たちが口を揃えて言うのが、
「上からの指示で言われたとおりやっただけ」というセリフ。
悪の実体はどこにあるのかよく分からないことを示す訳ですが、
その被害者をヤクザ絡みの悪いやつではなく、
何の罪もない中学生に設定することで、
こちらの倫理観は激しく揺さぶられます。
また本作では韓国の現在の社会問題にフォーカスしています。
韓国の社会問題に詳しくありませんが、
本作の中ではそれらが群像劇の中で描かれ、
すべてを結びつけるのが暴力による発散になっていると。
何が正しくて、何が間違っていて、
何が良くて、何が悪くてということの結論を示す訳ではなく、
「考えてみてくださいよ」という論考促進型なのが
僕の好みではありました。
そして、どこの国でも起こっている問題は近いのかな、
と先日見たバーバリアンズを思い出したりもしました。
見てから1日経っているんですが、
様々な要素がぶち込まれていて、
なおかつ象徴主義のような描き方の部分が多いため、
言葉で上手く消化できないのが正直なところです。
とにかくキム・ギドグの映画を今年は本気でたくさん見なきゃ!
と心底思わされた素晴らしい作品でした。

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