2015年11月20日金曜日

恋人たち



以前に先輩と映画飲みした際に、今年は邦画がアツい!
って話で盛り上がった中で一番期待していたのが本作。
「ぐるりのこと」という大傑作を手掛けた橋口監督が
7年ぶりに長編ということで楽しみにしておりました。
これがまーハンパなき仕上がりで、
大したことは起こらない市井の「恋人たち」を
描いただけといえばそうなんだけど、
とても重厚な作品で見てから2日経った今も
上手く消化できていない、そんな素晴らしい映画です。
3つのストーリーが存在し、それぞれの主人公が無名の新人。
監督がワークショップで見つけてきて、
彼らを想定しアテ書きしたとは言え、
「そこにいる」という強烈な実在感から放たれる、
過酷な環境の中でも「生きる」しかないという人間の凄みを
目の当たりにできる希有な映画体験でした。
派手でかっこいい映画も当然好きなんですが、
僕がひたすら映画を見ているのは
本作のような言葉で表現しにくい体験を
得ることができるからかもなーと思ったりしました。
(それを言語で表現し、
少しでも身体化するためにブログは書いています。)
前述したとおり、主に3つのストーリーで構成されています。
一番メインとなっているのは、
建設作業員で奥さんを通り魔に殺されたアツシ。
もう1人は弁当屋でパートとして働きながら、
ここではないどこかに憧れる主婦の瞳子。
最後の1人は弁護士でゲイの良。
冒頭、アツシのインタビューシーンから始まり、
彼ら3人の生活を追っかけるような感覚で見ることになります。
全体で140分と長めなんですが、
いずれのエピソードも要素がテンコ盛り。
そして、どのエピソードにも
最近考えていることにリンクする点があって、
あっという間に終わったという印象です。
アツシのエピソードでは、
奥さんを亡くすという巨大な喪失に向かい合う訳ですが、
そこに一切の綺麗事はなく、ただひたすら日常が流れていく。
自暴自棄に陥ることもあるし、いっそのこと死のうともする。
けれど、結局は「生きる」しかなくて、
その生死ギリギリのところでストッパーになるのは
少しの他人の優しさじゃないですか?ってところを
映像でビシビシ伝わってきてグッときました。
とくに食べ物を使った演出が好きで、
あめちゃん、弁当、差し入れと、
「生きる」ことの根源は食うことだと言わんばかり。
(僕は会社の先輩が弁当を持ってくるシーンで号泣しました)
とにかく主演の篠原篤さんの演技がハンパじゃない!
1人で部屋でいるシーンの実在感は
おいそれと出せるものじゃないし、
ワンショットで思わずズームになるシーンが使われてるんですが、
その刹那を捉える感覚を観客と共有したいという
監督の気持ちなのかな〜と思いました。
他人の気持ちを想像する力が欠如していることが
ネットで可視化され、加速化していく社会の中で、
「生きる」ことがしんどい人は一定数いる。
そこに対して己の都合のみで、
たち振る舞う存在として弁護士の良がいます。
しかし、彼自身はゲイであり、
マイノリティゆえの差別を受けるという、
矛盾を抱えたキャラクターだと思うんですね。
つまり、自分が他人にされたらイヤなことを
他人に対して自分がしてしまう。
加害と被害は表裏一体で、被害にのみ肩入れし、
加害を徹底的に叩くということは何も解決しない。
両方の視点で物事を見れることが大事だなと思う訳です。
2人の男性のエピソードが比較的重めなのに対して、
女性の瞳子のエピソードは笑っちゃうシーンが多くて、
ただ重いだけじゃないというバランスが好きでした。
瞳子がいる世界は閉塞した日本の地方描写として、
共喰いやそこのみにて光り輝くに近いものがあります。
そこから抜け出したいという潜在的欲求を
具現化しようとするんですが、そんなに上手くいかない。
(光石研のシャブ打ちシーンは最高最高!)
いずれのエピソードにおいても、
明確な打開策が描かれる訳ではないけれど、
時間をかけて素直に他人と向き合うことで、
状況が少しでも好転していくというのが、
あーこういうもんだよな人生。と思うこと山の如しでした。
どこか散文的なエピソードの数々が、
明星のUsual Lifeという曲ですべて繋がり、
タイトルが出るという作りもめちゃ好きでした!
日々生きる中で思い出さずにはいられない傑作でした。

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