2015年10月14日水曜日

岸辺の旅



カンヌを受賞したことで一気に話題となった
黒沢清監督最新作ということで見てきました。
以前に見たリアル 首長竜の日は全く乗り切れなかったんですが、
本作はとても心に残る好きな作品でした。
幽霊とのロードムービーものという、
かなり特殊な設定なんだけど、素直に受け止められたし、
たゆたう存在として幽霊を扱う点は
ストーリー的にもルック的にもオモシロい点が多かったです。
ネタバレ全開で書きましたので、
これから見る方はそっとウィンドウを閉じてください。

主人公は深津絵里演じる瑞希。
彼女はピアノの先生で浅野忠信演じる優介の奥さん。
優介は3年前に失踪し行方不明だったけど、
突如瑞希の前に現れ自らが死んだことを告げる。
そこから3年間で彼がお世話になった人々のもとを
訪れるという旅行が始まり…というお話。
好きだった人が亡くなって幽霊として現れる、
という設定の映画はたくさんあるかと思いますが、
黒沢タッチというべきか、
極めて自然に現実社会に溶け込む設定なのがオモシロかったです。
優介は実体としてそこに存在するし、他人にも認識されている。
けれど、ふとしたタイミングで消えていなくなることもある。
そこには切なさと愛しさと心強さが横たわっている訳です。
この辺りを光の使い方やカットの割り方、
何気ないショットの積み重ねで
見ている側に伝わってくるのは本当に素晴らしかったなぁ。
原作はまだ読んでいないので、何とも言えないですが、
この題材で他の監督が撮ったら、
ダサくて甘〜いお涙頂戴ものになってもおかしくないと思います。
僕自身は幽霊を信じている訳ではないですが、
そこは大きな問題ではなく、
あくまで幽霊は「不安定な存在」として扱われてる点が
素直に物語に乗れた理由かなーと感じました。
私たちが普段生活する中で当たり前に存在する、
人、ものは尊い存在であることを
映画を見ている間ヒシヒシ感じていました。
本作では瑞希と優介がベッドメイキングするシーンが
非常に多いんですが、それは寝て起きたときに
優介がそこにいるかどうかは分からない
不安定さの演出としてさりげないけどナイスなところだと思います。
睡眠は死の従兄弟と言ってのけたNasを想起しました。
また居なくなるときにはカットを割って、
ふっと消えてしまうところも好きだったなー
(下手すればVFX使ってフェードアウトなんて、
ダサい演出も考えられる訳ですから…)
小松政夫の徘徊老人シークエンスでは、
元々ホラー出自の監督なのもあって、ホラーな展開があり
磨りガラスにズームしていく演出は怖かったし、
花を使ったシークエンスは胸が詰まりました。
大衆食堂のシークエンスでは、
ピアノと食堂の奥さんの妹のシーンが素晴らし過ぎた!
光を使った演出は然り、絶妙なバランスでの幽霊表現を
日本で黒沢清以外に誰ができようか!というレベル。
また銭湯帰りに瑞希が言うセリフはキュン死!
僕が考えていた本作の要素をズバッと言われました。
久々に深津絵里をスクリーンで見ましたが、
幽霊を相手する生者という難しい役を
可愛げと切なさ込みで演じていて、
めちゃめちゃ素晴らしい役者だよな〜と改めて。
本作を見た誰もが忘れることのできない、
蒼井優とのバトルは着火から大炎上までの流れ含め、
日本を代表する2人にしかできない殺し合いで
ヒリヒリしまくりでしたね。
また繊細な瑞希のカウンターとしての
浅野忠信の演技も素晴らしくて、
ガサツなようで、ときに芯を食うスタンスも最高最高!
ラストの農村でのシークエンスは
幽霊であることのケリの付け方も心動かされるものだったし、
浅野忠信のセリフは自分に言われているようでハッとしました。
まだまだ語り足りない部分は山盛りですが、
本当に素晴らしい映画なので劇場で見て欲しいです!

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