2016年12月22日木曜日

誰が音楽をタダにした?巨大産業をぶっ潰した男たち

誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち (早川書房)

ネットで話題になっているのを見かけましたし、
メルマ旬報の伊賀大介さんの連載でもプッシュされていたので、
楽しみに取っておいたのを読みました。
今年読んだノンフィクションでぶっちぎりにオモシロかったです。
音楽産業が斜陽である、ということは言われて久しく、
全世界でCDが売れなくなり、皆が体験を重視するようになり、
ライブやグッズがアーティストの食い扶持を稼ぐ
というビジネスモデルにシフトしています。
なぜCDが売れなくなったのか?
それはiTunes等の登場によりCDショップへ行かず、
Webで音源をダウンロードできるようになったこと、
また、その音源をiPodによって
大量の楽曲を持ち運びできるようになったことが
音楽が好きな人はある程度想像がつくと思います。
これらすべてを可能にしたのは、
音楽を圧縮する技術によるものです。
通常CDで一枚のアルバムは500〜600MBのサイズですが、
それをmp3でPCに取り込めば
10分の1程度まで圧縮することができます。
この音楽圧縮技術を中心に20世紀末から21世紀にかけて、
音楽ビジネスに何が起こったのか?を描いています。
単純な史実を横並べするだけじゃ歴史の教科書を
読まされるようなもので退屈になるんですが、
本作はメインに3人の登場人物を置くことで、
音楽ビジネスの背景を立体的に、
かつ非常にスリリングに描いています。
1人目はドイツ人のブランデンブルクという人で、
mp3という規格を発明したグループのリーダー。
このパートはmp3という技術の開発とその広まり方を書いていて、
NHKのザ・プロフェッショナルのようでオモシロい。
mp3の話題になったときに最初に挙げられるのが、
音質の問題だと思うんですが、
そこも詳しく解説されていて目から鱗なことばかり。
たまに音質のことガチャガチャ言う人を見かけるんですが、
圧縮したmp3と未圧縮のwavやaiffをブラインドで、
どれだけ聞き分けられるんだろうといつも思います。
本書内ではmp3はブラインドによる音質テストも
クリアしたと説明されていました。
しかし、このmp3は政治的駆け引きの中、
当初劣勢の技術で初めはmp2が採用されていた。
それをひっくり返すきっかけになったのが、
スポーツ中継の音声だというのも驚きでした。
なかなか世に広まらないmp3を広めるために、
エンコーダーをフリーでバラまいたことで
事態は大きく動いていくことになります。
2人目はグローバーというCD工場の労働者。
彼はRNSという音楽リークグループに所属し、
エンコーダーの登場により
音楽を圧縮しサイトにアップロード、
皆でシェアできる環境が整ったことで
合計2000枚以上の音源をWeb上にばらまいた人。
CD工場で働いているのでリリース前の
音源を入手できる環境にいる彼が
次々とリークしていくところが超スリリング!
実際、彼らのグループもも儲けるために
リークするというよりもスリルを求め、
音楽会社を出し抜くという行為を楽しんでいただけ。
というのも興味深いなーと思いました。
本作の著者もイントロで書いていますが、
web上に溢れる違法ダウンロード音源は
様々な人がサイトにアップロードしているかと思いきや、
少数の人間が組織立って仕組んでいたことにも驚きました。
そして3人目はワーナー、ユニバーサルと
世界の名だたるレコード会社のトップを務めたモリス。
彼がいかに凄腕なのかが伝わってきました。
とくに90年代後半〜05年くらいまでは、
ヒップホップの世界的流行とシンクロしているため、
ヒップホップの話題がとても多くて楽しい。
ドレ周りのウエストサイドから始まり、
リル・ウェインを始めとしたサウスサイド、
著作権という点で欠かせない
ミックステープマスターであるDJドラマの逮捕、
ヒップホップ界のキングJAY-Zなどなど。
すでに老人だったモリスは違法ダウンロードを
意に介さず「売ったらええんやろ!」という
姿勢を貫くところが男気あってカッコ良かったです。
結果、ユニバーサルのエグゼクティブとして
今をときめく数多くのアーティストを
世に送り込んだ実績を持ち、
その見つけ方が小さなエリアのトレンドを
世界に拡大するというマーケティング手法、
というのもオモシロいところ。
上記のヒップホップのアーティストは
すべてモリスの手の中にいたし、
さらに動画広告もモリスが思いつき、
Vevoを立ち上げている。。。
完全にモリスの手の内で僕が音楽を消費していたことに
本当に驚いてしまいました。
一番好きだったエピソードは
JAY-Zとの契約を巡ったコイントスの話。
100万ドルを払うか、払わないかを
コイントスで決めるっていう…
スケールがでか過ぎて意味が分からないのが最高。
mp3プレイヤーが登場し、
今まで家で聞いていた大量の音源を
持ち運びできるようになったことで、
音楽業界は深刻なダメージを受けるようになります。
僕はてっきりmp3プレイヤーが登場してから、
違法ダウンロードが横行したものと思っていましたが、
実際には逆だったようです。
グローバーの所属するRNSは結局逮捕されるんですが、
RNSのメンバーは実際に対面したことがなく、
裁判所で初めて顔を知るというのも
インターネット時代を感じさせるエピソードでした。
今やストリーミングが導入されて、
月額1000円で膨大なライブラリーが聞き放題の世界で、
これから音楽がどうやって消費されていくのか、
今後の音楽ビジネスのあり方も注目だなーと改めて思いました。
とにかく目から鱗の事態の連続と、
それをスリリングに読ませる描き方の
コンビネーションがあまりに素晴らし過ぎました。
著作権の考え方は日本ではまた異なるので、
誰か日本版を書いて欲しい!!

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