2016年5月8日日曜日

ヴィクトリア



<あらすじ>
3カ月前に母国スペインからドイツにやって来たビクトリアは、
クラブで踊り疲れて帰宅する途中、
地元の若者4人組に声をかけられる。
まだドイツ語が喋れず寂しい思いをしていた彼女は
4人と楽しい時間を過ごすが、
実は彼らは裏社会の人物への借りを返すため、
ある仕事を命じられていた。
映画.comより)

全編ワンカット!という予告編を見て
気になったので見てきました。
映画始まってしばらくは
「これワンカットの必要性ある?」
という気持ちで見ていたんですが、
後半の強烈なドライブのかかり方に驚愕。
サスペンスとして無茶苦茶オモシロかったです。
ネタバレ厳禁系なので見た人だけ読んでください。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

映画はタイトルクレジットのあと、
強烈なフラッシュライトが展開し、
その中で主人公のヴィクトリアが踊っているという、
非常にスタイリッシュな映像で始まります。
前半はあらすじに書かれているように、
若者たちとの戯れをひたすら描いていきます。
前述したとおり、ここがめちゃくちゃ長いんです。
長い理由としては2つあるのかなと。
1つ目は本作の脚本にあります。
台本として用意されているのは12ページのみで、
あとは役者のアドリブの演技で埋められています。(1)
さらに本作はガチのワンテイクで撮影されており、
3回目のテイクが採用され、現在の上映版となっています。(2)
ゆえに場面展開も役者任せの部分があるがゆえに、
間延びしてしまっているのかなと。
2つ目は臨場感の増幅という効果。
見終わってから思いましたが、
この前半部分のたわいもない会話が長ければ長いほど、
観客が共犯者として作品に没入することが可能となり、
後半の惨劇に対する当事者性が増す作りになっていました。
ただ、前半を見ている段階では、
その後の出来事を予期できないがゆえに退屈に感じちゃう。
甘酸視点で見れば、見知らぬ外国人同士が話しながら、
親近感を増していくという意味で、
ビフォアシリーズを想起するんですが、
映画全体に不穏な空気が充満していて、それどころじゃない。笑
前半で大切なのは、主人公のヴィクトリアが
なぜ彼らの悪行に加わるのか?という動機の部分。
言葉で説明することなく彼女の言動や背景から描かれていました。
例えば、クラブでウォッカのショットを1人で飲んだり、
危ないって注意されたことを止めなかったり。
故郷のスペインでピアニストを志すも挫折し、
心機一転ドイツへやってきた彼女にとって、
初めてできた友達との連帯感は、
悪いこと(万引きとか)だとしても楽しかったりするんですよね〜
背徳感の共有で仲良くなることに共感しました。
そして、後半はいよいよ銀行強盗のシークエンス。
若者の1人がムショ暮らしの際に
世話になった先輩に脅されて強盗を行うことになります。
ワンカットゆえの魅力というべきか、
強盗の予習させるというのがフレッシュでオモシロかったです。
そしていざ強盗!となるんですが、
カメラは強盗シーンを追わずに、
ドライバーとして待機するヴィクトリアを映し出す。
通常であれば銀行強盗の方がショッキングで、
映画としてのルックが派手になると思います。
しかし、本作の主役はヴィクトリアであり、
巻き込まれた彼女からカメラが離れることはない。
そして、ここでのエンジンかからないパニックは
めちゃくちゃハラハラしました!フレッシュ!
無事に金をゲットしてエスケープするんですが、
ヴィクトリアがエンジンのパニックから抜け出せず、
道が分からなくなってしまいます。
この場面もワンカットならではというべきシーンで、
実は彼女は本気でどこに向かうか忘れてしまっているんです。
ゆえに演技と現実が入り混じった、
非常に緊迫したシーンになっていました。(3)
一旦逃げてしまえば、こっちのものと言わんばかりに、
冒頭で訪れたクラブへ戻っていきます。
若者たちは金がなくて入れなかったけど、
今度は金があるからやりたい放題!
この強盗の打ち上げシーンは、
仲間のいなかったヴィクトリアが仲間を連れて凱旋!
といった多幸感満載で良かったです。
楽しい時間は束の間で、警察に見つかってしまい、
逃亡シーンが始まります。
まるで逃亡犯のドキュメンタリーを見ているかのような、
その臨場感は銃撃シーンで爆発!とにかくスリリング!
さらに変装してタクシーで
エスケープするシーンで緊張感はマックス!!
無事に逃げ切ったあとはホテルへ身を隠します。
このシーンでヴィクトリアが1人で逃げるチャンスや、
警察に通報することさえできたように見えました。
しかし、彼女はやっと得た仲間のことを、
極限状態でも大切に思って全力を尽くします。
目的は金ではなくて、かけがいのない仲間であるという
スタンスにグッときました。
ラストショットでは再び1人になった彼女を
初めてカメラが引きで撮るわけですが、その背中は雄弁。
1人ということに昨日と変わりないけれど、
生きることへの決意を彼女から感じました。
ワンカットから生まれる奇跡に愛された作品!

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