2016年5月28日土曜日

海よりもまだ深く



<あらすじ>
15年前に文学賞を一度受賞したものの、
その後は売れず、作家として成功する
夢を追い続けている中年男性・良多。
現在は生活費のため探偵事務所で働いているが、
周囲にも自分にも「小説のための取材」だと言い訳していた。
別れた妻・響子への未練を引きずっている良多は、
彼女を「張り込み」して新しい恋人がいることを知り
ショックを受ける。ある日、団地で一人暮らしをしている
母・淑子の家に集まった良多と響子と11歳の息子・真悟は、
台風で帰れなくなり、ひと晩を共に過ごすことになる。
映画.comより)

是枝監督最新作ということで見てきました。
近年のドライブ具合はハンパじゃなくて、
どの作品もとにかくオモシロい!!
ということは皆さんご存知の通りです。
そして今回も最高最高な作品でした!
これまでの作品とかなり毛色が異なっいて、
めちゃめちゃ笑わせてくれる作品で、
こんなのもイケるのか…と引き出しの広さに驚いた次第です。
理想とは程遠い人生を送り、
何者にもなれない大人は不幸なのか?
不確かな人生にもある幸せ、豊かさを教えてくれた気がします。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

本作のメインの舞台となるのは団地。
是枝監督は以前から団地を舞台にした
映画を撮りたいと考えていたものが実現した形。
冒頭は当然団地内でのショットから始まります。
ここで登場するのが樹木希林と小林聡美。
2人は親子で他愛もない会話をする、
日常がそこで繰り広げられます。
2人とカメラの距離感やベランダが見えるショットから、
セットじゃなくて本物の団地で撮影していることが
よく分かる作りになっていました。
とにかく本作の魅力は役者陣の魅力と
断言できるくらい出演者全員が
スクリーンで躍動しているんですよね。
役者の奏でるアンサンブルとはまさにこのこと。
適材適所で皆がピッタリはまっているし、
団地という舞台、「日常」の作り込みの丁寧さも伴い、
それぞれが超有名俳優にも関わらず、
恐ろしいまでに「すぐそこにいる」感じがしました。
今回の樹木希林は見たことがないくらいの無双状態。
主人公の阿部寛の母親役で最近旦那を亡くしたばかり。
(小林聡美は阿部寛の姉役)
お節介と言うべきか、世話焼きと言うべきか、
母親、祖母あるあるを軽やかに演じていて、
それがめちゃめちゃオモシロくて最高最高!
最初に阿部寛が母親の元を訪ねた際に、
カルピスで作ったシャーベットを出すんですが、
その器がモロゾフのプリンの器っていうところに、
個人的にグッときてしまいました。
(おばあちゃんの家には必ずモロゾフのグラスがあるから)
そして本作の主人公である阿部寛。
僕が本作で一番好きなキャラクターです。
小説家として一度日の目を見たゆえに
プライド(意地)が高くて口だけは達者で、
弱いものには強く出るけど、強いものには丸くなる。
母親の過干渉をめざとく感じていないし、それを甘受している。
前半で樹木希林が放つ、
実がならないけれどひたすら大きくなっていくだけの
みかんの木の例えを実でいく男。
かつて、ここまでダメなやつはいただろうか?
というくらい世間基準で見れば徹底的なダメンズ。
(したのか/していないのか?からの強襲は爆笑した)
そんなダメンズ見てられるか!自業自得だ!
と思う人もいるかもしれませんが、
そのダメダメっぷりを徹底的に笑いへと
変換していくがゆえにイライラしないで、
ずっと見ていられるのかなーと思いました。
楽天主義なんだけど過去に生きてしまう男の性。
確かに懐古主義な話って女性から、
あまり聞いたことがないかもなーと思ったりしました。
(対比としての油絵の例えは秀逸)
僕がとくに好きだったのは
池松壮亮と阿部寛のじゃれ合い、年の差バディ感。
どうしよもない先輩とは思っているけれど、
その姿を温かく見守っている感じが好感大。
ハナレグミが歌う本作の主題歌のPVの主人公を
池松壮亮が演じていましたが、
映画見た後だと 泣いてしまうんやで…
会いたくなったら会いに行く。。。



また、本作は無数のパンチラインが
埋め込まれているのも特徴的な作りだと思います。
物語と呼応しながら嫌味なく、
観客の胸に言葉が突き刺さってくる。
これは主人公が作家であり、
彼もまた言葉を探す職業であるという
物語的な必然性も伴っているところに関心しました。
「あきらめなければ必ず夢は叶う!」みたいな、
紋切型のヘドが出る自己を啓発する美辞麗句をつまみ食いして、
アホみたいな顔してるやつに煎じて吐くまで飲ませたい。
タイトルにもなっている「海よりもまだ深く」は
樹木希林が放つセリフの一部なんですが、
照れ隠しを後で入れることで、
物語全体の軽やかさを担保する象徴的な場面。
この幸福論にひたすら共感していました。
現在放映中のNHK朝ドラのとと姉ちゃんでも
同じようなテーマが扱われています。
他人のことばかり気にするのではなく、
日常の中にささいな幸せを見つけることや、
求めてばかりではなく自分の身を犠牲にしなければ、
幸せは手に入らないかもしれないという利他性が大事であると。
軽やかさという点でいえば、
劇伴が非常に重要な役割を果たしています。
担当しているのはハナレグミ。
詳しくはインタビューを読んでいただければと思いますが、
小気味いいんですよねぇ常に。
ダメかもしれないけれど、それもまた人生じゃん。
って音楽からも伝わってきました。
終盤は台風という非日常がもたらす家族の時間が描かれます。
僕は皆でカレーうどんを作るところで、
このまま皆で幸せに暮らしたいいじゃない!と泣いてしまいました。
ZIPロックの作り置きのカレーなのも最高。
あとは団地ならではの視点の配置。
阿部寛は椅子で、真木よう子&子どもは床に座っているし、
団地は広くないから、それぞれ別の部屋にいる。
絶対にこの3人が同じ方向に向かう、
つまり一緒に過ごすことはないんだなぁと
画面で直感的に分からせる是枝監督の技量に感服。
だから真木よう子vs樹木希林はとても切ない。
戻らないとわかっているけれど、
同じ部屋に布団を準備するという
下世話な伏線だけれども。
一縷の希望にかけたくなる樹木希林の気持ちが
痛いほど伝わってくるんですよねー
綺麗事だけでは幸せになれない世界。
そんな中でも一瞬なら向き合えることを示すのが、
夜の団地の公園での家族水入らず。
ここでの「何者論」もとても興味深かったです。
ラストの硯のくだりはぐっときたし、
あれがなければ本当のクズ野郎になってしまうところ。
タイトルが筆字なのはそれゆえだし、
文字が人を表すということも示唆しているし、
オープニングとも繋がるしで鳥肌立ちました。
ボンクラ男子必見の映画。

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