2016年5月5日木曜日

ズートピア



<あらすじ>
どんな動物も快適な暮らしができる環境が整えられた世界。
各々の動物たちには決められた役割があり、
農場でニンジン作りに従事するのがウサギの務めだったが、
ウサギの女の子ジュディは、サイやゾウ、カバといった
大きくて強い動物だけがなれる警察官に憧れていた。
警察学校をトップの成績で卒業し、
史上初のウサギの警察官として希望に胸を膨らませて
大都会ズートピアにやってきたジュディだったが、
スイギュウの署長ボゴは、そんなジュディの能力を認めてくれない。
なんとかして認められようと奮闘するジュディは、
キツネの詐欺師ニックと出会い、ひょんなことから
ニックとともにカワウソの行方不明事件を追うことになるのだが……。
映画.comより)

その異常なまでの評判の高さから、
とても楽しみにしていたディズニー最新作。
ディズニーはスターウォーズ、MARVELを吸収し、
最強のエンターテイメント企業となっている訳で、
横綱相撲を取れるにも関わらず、
十両ばりの果敢な攻めの相撲を取るという偉業。
と言っていいと思います。
お話として子どもが十分楽しめるぐらい、
オモシロいのは大前提として、
その中に含まれたメッセージに完全にロックされてしまいました。
様々な映画が上映されていますし玉石混合ですが、
本作はホントに皆見た方がいいです。
時間がかかるかもしれないけれど、
本作がきっかけで世界が変わるかもしれないから。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

物語のレベルの説明として、
動物の子どもたちの劇から映画は始まっていきます。
もともと動物たちは草食と肉食が存在し、
肉食動物が草食動物を捕食するという関係から、
共存する関係に変化しズートピアという理想郷が形成され、
出自に関係なく自分のなりたい道を選べる世界。
これはアメリカ合衆国の理想形の形であり、
冒頭にこれを見せておいて、
その理想との乖離を物語を通じて描いていきます。
田舎で育ったジュディという
女の子のウサギが主人公なんですが、
ズートピアで警察官として働く夢を持っています。
その夢を叶えるために頑張ろうとするんだけど、
理想郷とは異なる田舎の空気が描かれていてビックリ。
アメリカって開放的なイメージがあるけれど、
彼女の村は日本でいうところの村社会。
「頑張ってもしょうがないよ」
「自分の与えられた役割をこなしとけばいいんだよ」
と親がちゃちゃ入れてくるんですね。
ジュディはそんな空気にも負けず、
警察官になるという夢を叶えます。
そして憧れのズートピアに着任することに。
この前半の短い間に狭い部屋を使った都市論や
警察という職業を使って性差別の話を
スムーズに詰め込んでいるのが見事過ぎる!
しかも、アナ雪を逆手に取ったシーンがあって共感。
「ありのままで」というフレーズだけが切り取られて、
ここ日本でも流布されまくりましたが、
あれは抑圧されていたエルサが開放するという意味での
"Let It Go"であり現状肯定を促進するものではありません。
本作内ではそれを逆手に取って、
そのまま現状に留まっとけやの意味で使われていて、
ブラックジョーク効いてるなぁと思いました。


そして物語の核心となるのは動物の種類によって差別する社会。
相棒となる狐のニックの登場シーンは、
1970年代にアメリカに存在した、
アフリカ系アメリカンへの差別を単的に戯画化したもの。
(ここでは狐というレイヤーでの差別)
狐は嘘つき、ウサギに力はないという
それぞれに対するレッテル貼りを打破していく。
そのきっかけとなるのが肉食動物行方不明事件。
捜査を進めていく中で彼らは理性がなくなり、
野生動物へと変貌し暴れた結果行方不明となったことが判明。
この捜査の過程がサスペンスとして抜群に面白いし、
ここでもユーモアたっぷりで楽しかったです。
特に役所の人間がナマケモノのくだりは
エッジが効いたジョークで最高最高だったなー
結局、凶暴化した肉食動物たちは市長が
施設に監禁していることをジュディたちは突き止めて、
事件は無事解決したかのように見えたものの、
野生化の謎は残されたままで、
記者会見でのジュディの言葉がさらなる混乱を引き起こします。
ジュディは決して差別主義者でもないし、
何なら自らもウサギということで様々な偏見にも晒されています。
そんな彼女がちょっとした思いつきで話す優生学、
これはナチスがユダヤを迫害したときと同様の思想ですが、
それが思いがけず口から出てしまうというねー
ここに差別の根深さがあるというか、
悪意はなくとも人のことを出自で差別してしまう気持ちは、
誰しも持ってしまうことがあるというバランスが
素晴らしいと思ったんですね。誰だって間違うことがあるんだと。
そして間違った時には素直に謝って、
お互いの理解を深めればいいんだよという、
極めて真っ当なメッセージに心底ロックされました。
また、ジュディが警察官を辞めるとき、
危険な可能性を持つ肉食動物がいなくなれば
「清く正しい社会」となる排外思想への
アレルギー反応にもとても共感しました。
Black Lives Matterとして人種差別問題が
表面化している最近のアメリカの状況を踏まえると、
このメッセージは当然のことなんですけど、
ディズニーがモロに描くことで、
これを見た子どもたちが言われなき差別のない
社会を作ってくれるかも。。
という希望を抱かずにはいられませんでした。
(お前もな!という声が聞こえそうですが、、)
というメッセージ性の高さもさることながら、
バディサスペンスものとしても超オモシロい!
個人的には夜の遠吠えにおける、
ブレイキング・バッドオマージュに痺れました。
追いかけてくる羊はウォルターとジェシーだし。
ファンアートでこんなものも。。


とにかく出自、見た目と中身は一致しませんというスタンスが、
サスペンスの結末とラストのオチまで徹底。
理想主義と言われるかもしれないけれど、
その理想を掲げなければ、何も変わらないということを
とてもオモシロい話で教えてくれる
教科書みたいな最高最高の映画でした!

0 件のコメント: