2016年4月11日月曜日

ボーダーライン



ドゥニ・ヴィルヌーブ監督最新作。
プリズナーズ複製された男と、
素晴らしい作品を次々と産み出している、
今もっとも注目すべき監督かと思います。
とくに複製された男は公開当時、
仲間内でかなりバズって原作まで読みました。
(僕は映画の方が断然好み!)
そんな彼がメキシコ麻薬カルテルを題材にした
映画を撮るとなれば期待せざるを得ませんでした。
画面がとてもリッチになっていて、
プリズナーズでも描かれていた倫理の部分に
フォーカスしつつ、クライムサスペンスとして
無類にオモシロい!という期待通りの仕上がり。
彼はブレードランナーの続編も任されている、
超有望監督なので覚えにくい名前ですが、
要チェックだと思います。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

テロップで原題のSICARIOという言葉の
定義が示されて映画は始まります。
(メキシコで暗殺者という意味らしいです)
冒頭から文字通りアクセル全開で、
麻薬カルテルのアジトに突っ込んでいきます。
いきなりクライマックスかよ!ぐらいの
緊張感を煽られて映画に引き込まれました。
アメリカ、メキシコの麻薬カルテルものは
近年非常に注目を浴びていて、
数多くの映画・ドラマが作られていますが、
このアジトに仕掛けられた秘密は
なかなかのパンチ力でビックリしました。
ツカミは抜群で、この緊張は映画が終わるまで
ほとんど弛緩することがありませんでした。
本作は極めてドライな印象で、
麻薬カルテルの見えにくい闇という点では
悪の法則が近いと思います。
このドライな印象というのは、
麻薬カルテルとの戦い!といった、
サボタージュのような打ち出しではなく、
最初のシーン以外は用意周到なアメリカ側の
圧倒的な暴力が繰り広げられるからかもしれません。
本作の魅力は内容だけに止まらずルックの部分、
つまり 画と音も最高峰に好きな部類に入ります。
画に関しては多用されている俯瞰ショットや、
雄大な自然の地平線のショットが
とにかくカッコ良すぎる!!
俯瞰は神の視点であり、
麻薬戦争という人間同士が争う虚無感が、
より強まる効果を生んでいるように思います。
そして、神の視点という究極の客観と、
終盤のトンネル襲撃を含むアクションにおける、
人間一人の主観の対比が素晴らしいと感じました。
もともと複製された男でも意味深な街のショットを
数々インサートしていたわけですが、
今回は撮影監督に巨匠ロジャー・ディーキンスを
迎えているがゆえのこの完成度。
非常に食い合わせが良いと思うので、
このタッグで撮れるところまで撮って欲しい!
一方の音ですが、とても低ーい重低音が
強弱のメリハリをきちっとつけて展開されるし、
緊迫した場面では相当なボリュームで鳴り響く点が
とにかく最高最高!
視覚、聴覚のみで映画に取り込まれるような印象。
映画のルックという点で言えば、
俳優陣も最高の布陣だと思います。
もちろん主演のエミリー・ブラントも好きなんですが、
なによりも本作で最高の演技を見せているのは、
ベニチオ・デルトロに違いないと思います!
アメリカ側に肩入れするメキシコの元検事なんですが、
圧倒的暴力の象徴として躊躇なく引き金をひき、
自分の目的に向かって最短距離で突き進む姿が
とてもカッコよかったです。
しかも前半は寝ぼけた感じで、
「こいつ大丈夫かよ。。。」と思わせてからの、
メキシコ国境でのガンアクションのキレよ!
終盤の鬼神のような振る舞いも最高最高!
エミリーとベニチオの対比で描くのが、
正義のボーダーライン。
エミリーはカルテル撲滅作戦に初めて参加するので、
一切勝手が分からず言われるがまま作戦に同行するんですが、
彼女は一警官として、ある種理想の正義に燃えているわけです。
ただ、この理想の正義というのが非常に抽象的で、
新米というのもあってしょうがないんですが、
机上の空論を唱えているようにしか見えない。
一方でベニチオの方は圧倒的な現場主義。
経験に基づく暴力ですべてをコントロールし、
そこに既存のルールは当てはまらない。
この対比により一体なにが正しくて悪いのか、
観客に考えさせる作りになっていました。
正義のバランスという点でも配慮があって、
それを担うのがメキシコ人警官一家。
サイドストーリーとして挟まれているんですが、
彼らの存在によって麻薬カルテルを
一方的に断罪しないバランスになっています。
そして本作は現在進行形で起こっている、
麻薬カルテルという社会問題について、
非常にスマートに説明されている点も見所。
僕は皆殺しのバラッドというドキュメントを見て、
おおまかに理解したんですが、
なかでもフアレスの描き方は首なし死体、
屋上から見る"花火"など、言葉で説明することなく、
ヴィジュアルでどういった街なのか、
描いていく点が良かったなーと思います。
ラストの一連のアクションシーンは
暗視スコープの使い方のフレッシュさや
テンポの良さでグイグイ引き込まれました。
エンディングのお前の薄っぺらい正義なんて、
なんぼのもんじゃい!的な、
ベニチオの追い込み芸も好きでした。
解決のためにアメリカ側が動いた結果、
フアレスにもたらされる混沌を見せつけられると、
再び善悪の境界が曖昧模糊なもとなり、
なんとも言えない気持ちで
劇場を後にするしかないというねー
プリズナーズ、複製された男のイイとこ取りだけではなく、
さらにその先も提示してくれた最高の作品だと思います。

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