2016年4月14日木曜日

リップヴァンウィンクルの花嫁



<あらすじ>
SNSで知り合った鉄也と結婚することになった

派遣教員の皆川七海は、親族が少ないため
「なんでも屋」の安室に結婚式の代理出席を
依頼して式を挙げる。
しかし、新婚早々に鉄也が浮気し、
義母から逆に浮気の罪をかぶせられた七海は
家を追い出されてしまう。
そんな七海に、安室が月給100万円という好条件の
住み込みのメイドの仕事を紹介する。
そこで知り合った破天荒なメイド仲間の里中真白と
意気投合した七海だったが、真白は体調がすぐれず
日に日に痩せていく。そんなある日、
真白はウェディングドレスを買いたいと言い出す。


3時間という上映時間の長さに気後れしていましたが、
色んなところで話題になっていたので見ました。
監督は岩井俊二なんですが、
僕は偏見全開でほとんど見たことがありませんでした。
言い方が悪いですが、
「どうせ女子受けしそうなタマナシ映画作ってるんでしょ〜」
と思っていました。
しかし、四月物語という作品が最高の甘酸映画で、
底の浅いことを思っていた自分が心底恥ずかしくなりました。
そして、本作はその印象をさらに更新するぐらい、
素晴らしい作品でございました。
今の日本なるものが切り取られているというか、
日常の話なんだけれど、どこか浮世離れしていて、
でもそんな現実に私たちは生きているのである、
みたいな話で不思議な気持ちになりました。
3時間の長さも物理的にお尻は痛くなったけど、
体感としてはそこまで長く感じなかったです。


※ここから盛大にネタバレして書きます。

はじめに述べておきたいのは、
本作の驚異的とも言えるショットの美しさです。
ドキッとするレベルのものがたくさんあって、
それと黒木華の天然記念物ばりの魅力のカップリングだけで、
スクリーンで見る価値が十分にあると思います。
前半は七海が結婚に至るまでの流れと、
その後の破滅までを描いていきます。
冒頭、池袋の街中で黒木華がSNSで出会った彼と
待ち合わせするシーンから始まるんですが、
この時点で七海の手を挙げる健気さが
彼女がどういったキャラなのかを示すシーンだと
見終わった後に強く感じました。
とにかく素直で人のことを疑うことはなく、
中身はさながら妖精のような存在。
しかし、現実は甘くなくて非常勤講師に加え、
コンビニのアルバイトを掛け持ちするくらい、
生活はギリギリの状態にあった中、
彼女は結婚を選択します。
この結婚が彼女の不幸を招く最大の原因となります。
こんなこと言うと敵を増やすだけなので、
あまり言いたくないんですけど、
僕は結婚式が得意ではないというか。。。
海外の結婚式のように、
ほぼ自由時間のパーティーならいいんですけど、
決まりごとの多さと見せかけの祝福に耐えられなくて、
「お前の結婚式での態度はいかがなものか?」
と言われること山の如しなんですよねー
そして、本作はかなりデフォルメしてるとはいえ、
僕が感じる欺瞞の本質を明確に突いていて、
とても胸がすく思いでした。
人に対する見栄とか世間体を意識する姿勢って、
時代がいくら進んでも永遠に無くならないのかなー
と少し虚しい思いにさえなりました。
僕が見ていて発狂しそうになったのは、
結婚式の両親への挨拶での子役を使った演出。
こういったサービスが現実に存在しそうな、
世の中の今の空気を感じさせてくれるのが、
本作の魅力じゃないかなと思います。
それを体現するのが綾野剛演じる安室ですよね。
顧客のニーズに対して、
その善悪については思考停止し、
100%でアジャストしていく商売の姿勢。
その最たる例がホテルでの浮気証拠作りのシーンで、
初めに見たときは「コイツ味方じゃないの?!」
と思いましたが、物語が進むにつれて、
彼は頼まれた仕事をただただこなすだけなのが、
徐々に分かってくる作りになっていました。
(安室行きまーすは爆笑!)
サービスを提供する側としては
顧客のニーズに応えないと当然食っていけないんだけど、
そこに新しいものは生まれないというのは、
エンターテイメントで特に強く感じます。
同じく仕事でもバランスが大切だなと最近は思ったり。
2人の結婚が破滅していく過程がなかなかの地獄絵図で、
タマナシどころか、タマあり過ぎるぐらいの勢いでした。
感情が一切介在せずしたたかに生きる安室と
感情豊かだけど流れに身を任せて生きる七海。
2人は正反対で安室が七海を搾取するかと思いきや、
凸凹がぴったり合うかのように物語は後半へ。
後半はCocco演じる真白が出てきて、
巨大な屋敷で2人で暮らし始めて、
七海はメイドとして働き始めます。
とにかくCoccoの魅力がスクリーンから
零れ落ちんばかりに炸裂してるんですよね〜
本人が実際に幸せかどうかは分からないけれど、
場を確実にポジティブに変換してみせる力、
その偉大さを強く感じました。(自分にはないから)
本作最大の見所である、
ウェデイング ドレス着用デートからの
自宅でのパーティーまで、
女性同士の恋愛を彷彿とさせる百合っぽい甘酸。
その中でCoccoが放つ本作の核心を突く、
非常にオモシロい見立てがあり溜飲を下げた次第です。
(幸せの最大値とお金による優しさの形骸化)
死に方のお洒落さには失笑してしまいましたが、
人が亡くなったときのあっけなさという点では
共感できるところはあったかな。。
正直ここで終わってもおかしくなかったけど、
さらにその死後を描いていきます。
一見するとラディカルに見えるシーンがあるんだけど、
裸の付き合いという最も"リアル"なところへ
帰結していくという意味では説得力がありました。
ラストの終わらない日常、
それでも生きていくのであるというオチも好きでした。

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