2016年4月2日土曜日

バンクシー・ダズ・ニューヨーク




<あらすじ>
謎のストリートアーティストとして
世界的に知られるバンクシーが、
2013年10月、ニューヨークの路上に作品を発表し、
その場所を探し当てるために人々が
ニューヨークを駆け巡った1カ月間を記録したドキュメンタリー。
(映画.comより)

もはや知らない人はいないと言ってもいいアーティスト、
バンクシーを題材にした映画ということで見てきました。
数年前にバンクシー自らが監督した、
Exit Through The Gift Shopという作品がありまして、
それがとてもオモシロかったので本作も期待していました。
本作も内容の本筋としてはExit~と近いものがあり、
既存のアートの価値の転覆というか、
彼自身が超有名アーティストになったことに浮かれることなく、
自分の価値を題材に皮肉の効いたアートを提供し続ける、
その姿勢がよく伝わってくる作品でした。
グラフィティを含むストリートアートについては、
「街の景観を乱している、けしからん!」
という本作内にも出てくる保守おじさん的な意見も
ごもっともな話なんですが、
それだけではないストリートが生むカルチャーや、
アートの価値は誰がいったい定義しているのか、
もう少し考えないといけないなー
と思わされる作りになっていました。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。


冒頭は本作がどういった構成なのかを

端的に示すシーンとなっています。
バンクシーがNYの街角にドロップしたアートを、
若者が勝手に略奪しようとして起こるドタバタ騒動。
この騒動のきっかけとなったのが、
バンクシーがNYに2014年10月に1ヶ月滞在し、
毎日作品をNYの街にボムするという企画です。
場所、時間は事前に告知されず、さながら宝探し。
本作には監督自身が撮影した
オリジナル映像はほとんどなくて、
TVニュース、You Tube、Instagramを主体としたSNSといった、
動画をコラージュした作りになっています。
なぜそういった作りになっているかといえば、
本作でフォーカスしているのは、
バンクシーというよりもバンクシーの作品に対する
人々のリアクションだからです。
今や彼の作品はオークションにおいて、
ものによっては数千万円レベルで落札されますし、
街中に提供されたアートは観光名所として機能するレベルです。
そんなものを目の前にした人間たちが、
どういったリアクションを取るのか、それが多種多様で、
そのリアクションからストリートアートの
オモシロさが見えてくる作りになっています。
彼はパブリックなエリアに作品を残すため、
上から落書きする人や作品を持っていってしまう人などが
彼の作品に対するリアクションの大半です。
ゆえに完璧な状態で見れる時間は限定されています。
そこで機能するのがインターネットで、
今回のNYの一連のアートにおいて
非常に重要な役割を果たしていました。
どこに書いたのかをインターネットで公開します。
誰の邪魔もされていない完璧な状態を担保。
(インターネット上のみの作品もありました)
彼はこれだけ有名にも関わらず、
情報化社会の中で面割れしていないという奇跡のような存在で、
彼の作品かどうかもインターネット上で証明されます。
この特徴がもっとも分かりやすいのは、
彼の作品を1枚60ドルで路上販売したシーン。
誰も本物と思っておらず、ほとんど売れません。
しかし、彼が「実は本物でした!」
とネット上で明らかにしたことで、
その絵の価値は爆発的に高まるというねー
一定の有名性を獲得すると、
アートはルックで価値が決まらなくて、
誰が書いたか?が価値を決めるのだというメッセージとして、
これほど痛快なものはないと思います。
パブリックなエリアにアートをもたらすという点についても
本作は非常に示唆的です。
一番印象に残っているのはNYの地下鉄の話。
ワイルド・スタイルでも描かれていますが、
1980~1990年代のNYの地下鉄は
グラフィティのスケッチブック状態でした。
現在では街のクリーン化を行い、
地下鉄にグラフィティは描かれていませんが、
その代わりに広告が掲載されています。
グラフィティ⇒広告に変わっただけでしかないという主張は、
なるほどなーと思いました。
当然、広告は広告会社と鉄道会社同士の契約
という双方が納得したものなんですが、
乗客からすれば、そんなの関係ないわけで。
そして、バンクシーが今回NYでアート活動を行った
最大の原因と思われる5 pointz の再開発・取り壊しについても
本作では終盤のメインテーマとして言及されています。
5 pointz はグラフィティのメッカで、
様々アーティストの作品が数多く残されているエリアなんですが、
NYの再開発の波に呑まれてしまいます。
これもアートの価値にまつわる話だと思っていて、
確かにイリーガルなものですし、
存在していても利益をもたらさなければ意味がないかもしれません。
しかし、その極端な合理主義のもたらす結果が、
本当に人の生活を豊かにするためのものなのか?
日本でも都心部では再開発が進んでいるので、
全く他人事ではないと思います。
長々と書いてきましたが、こういったメッセージを含む、
バンクシーのアートを楽しむ作品として
ばっちり楽しいので彼の作品に興味がある人には、
前作のExit Thorough The Gift Shopより、
こちらの方が分かりやすいと思います。
(本作で登場する作品一覧→リンク)
また、本作を含めたグラフィティーと映画の関係に
関する論文がwebに落ちていたので興味ある方は是非→

スプレー⽸の鳴る⾳­ グラフィティ映画研究 


さらにグラフィティーについて知りたいという方には、

アゲインスト・リテラシー  グラフィティ文化論がオススメ。

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