2016年4月9日土曜日

ルーム



<あらすじ>

7年前から施錠された部屋に監禁されているジョイと、
彼女がそこで出産し、外の世界を知らずに育った
5歳の息子ジャック。部屋しか知らない息子に
外の世界を教えるため、自らの奪われた人生を取り戻すため、
ジョイは全てをかけて脱出するが……。
(映画.comより)

ブリー・ラーソンがアカデミー主演女優賞を
獲得したことで脚光を浴びている本作。
彼女の出演作品といえば、
ショート・タームという作品があって、
それが本当に素晴らしい内容だったので、
とても楽しみにしていました。
予告編から想像していたものに加えて、
その先の結果にまつわる展開に
色々と考えさせられました。
何も終わらないけれど、
世界はそこに眼前に存在し続けるという
メッセージにやられちゃいました。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

本作は部屋に監禁されていた母子が、
その支配から抜け出すというお話です。
したがって、前半はほとんどその部屋の中で、
話が展開していきます。
はじめは彼女たちがどういった環境で
生活しているかが紹介されるわけですが、
カメラが役者にとても近くて、
スクリーンから圧迫感を強烈に
感じるようになっていました。
実際、大きなサイズのセットではなく、
11フィート×11フィートのセット内で
撮影が行われたようで、その効果は抜群でした。(1)
この窮屈な環境で生まれ育った、
5歳のジャックの言動がいちいち悲しいんですよね。。
彼は生まれてこのかた部屋を出たことがないから、
何が本当で虚実なのか、区別ついていません。
部屋の外は"宇宙"として存在し、
TVだけが彼にとっての"世界"になっています。
そんな風に考えるようになってかわいそう〜
と思う方もいるかもしれませんが、
これは普遍的なメッセージだと思っていて、
TVをインターネットに置き換えて考えると、
身に覚えがあるぞ…と。
自分が摂取している情報の真偽を
確かめもせず遠くから見て知った気になる、
ということは今の時代おおいにあると思いますし、
僕なんて完全に部屋閉じこもり系ですから。
(誰にも監禁されていないにも関わらずね!)
監禁している男が日曜日に、
物資を持って訪問するんですが、
その際、ジャックはクローゼットに隠れている。
部屋の中のさらに限定されたクローゼットでの展開は
緊迫感があって眠気も吹き飛びました。
この前半の生き地獄から、
後半は彼女たちがエスケープする話。
この脱出シークエンスに関しては、
ちょっとご都合主義かなーと思いましたが、
そんなことをすべて吹き飛ばす、
本当に素晴らしいシーンがありました。
段階的に極にまで空間を狭めたことで、
ただ空が広がっているだけなのに、あのヌケの良さよ!
これは絶対映画館で体験したほうがいい部類のものだし、
スクリーンで空を見ただけで、
あんなに泣くことはこの先ないように思います。
先にジャックだけ助かり、あとで母親も助けられるんですが、
ここのギミックが96時間リベンジに似ていて、
あの警官すげーな!と思ったりしました。
この助かるシーンがクライマックスで終わる映画も
多いと思いますが、本作はそれらと一線を画し、
助かったあとも描いてきます。
当然最悪の状況から抜け出したわけですから、
幸せになるはず …と思いきや、
そんな単純な話ではありませんでした。
まず、前半で不問にしていたジャックが
誰の子どもであるかという内容に
フォーカスを当てていきます。
当然ですが産まれてきた本人には
何の罪もないんですが、これからの人生がどうなるのか、
それが母親にとって強烈な不安、
プレッシャーとなって襲いかかる様は辛かったです。
とくに家族全員で食卓を囲むシーンの
あの独特の間合いには息を飲みました。
あと「レゴで遊んでよ!」というのは、
個人的にパンチラインでした。
そんな行き詰まった彼女に対して、
ジャックは"世界"に徐々に適応し始めて、
母親を心配する様子はグッとくるし、
おばあちゃんに「大好き」というシーンは、
不意打ちというのもあって泣きました。
ラストに部屋を訪れるシーンも共感するところがあって、
僕は阪神震災で大阪に引っ越したんですが、
数年に1回は当時住んでいたマンションを
訪れることがあります。
大人にとっては辛い記憶でも、
子どもにとっては、その中で見つけた良き思い出が
少なからず存在するのである、
というメッセージだと思いました。
本作の監督であるレニー・アブラハムソンは
FRANKを撮った人ですが、
いずれも"世界"から閉ざされた人が
自分と向き合うことでいかに世界と対峙していくか、
という共通点があると思います。
今後の作品も楽しみなところです。

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