2016年6月21日火曜日

クリーピー 偽りの隣人



<あらすじ>
元刑事の犯罪心理学者・高倉は、
刑事時代の同僚である野上から、
6年前に起きた一家失踪事件の分析を依頼され、
唯一の生き残りである長女の記憶を探るが
真相にたどり着けずにいた。
そんな折、新居に引っ越した高倉と妻の康子は、
隣人の西野一家にどこか違和感を抱いていた。
ある日、高倉夫妻の家に西野の娘・澪が駆け込んできて、
実は西野が父親ではなく全くの他人であるという
驚くべき事実を打ち明ける。

黒沢清監督最新作ということで見てきました。
前作の岸辺の旅がとても好きな作品だったので、
期待度高めで見たんですが、とてもオモシロかったです!
森田芳光監督のサイコパス・クラシックの黒い家、
ウシジマくんの「洗脳くん」というエピソードを
思い出したりしました。
単純に猟奇的なサイコパスが登場する映画というものではなく、
黒沢節というべきなんとも言えない不穏さが
スクリーンから溢れ出ていて、
新たな日本サイコパスクラシックの誕生!だと思います。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

映画はいきなりサイコパスと対峙するシーンから始まります。
ぐーっと引きで取調室にいる犯人の様子を映し、
クレジットがさーっと出て
タイトルもほんの一瞬しか表示されない。
西島秀俊演じる犯罪心理学者の高倉と、
あるサイコパスが対峙し彼に聴取をしていたところ、
犯人は脱走、高倉含め被害者が出てしまいます。
冒頭のシーンは彼が警察を辞めて大学教授となる
きっかけを描いているんですが、
それだけではなく彼のサイコパスとの
距離感を示す場面でもある。
彼はサイコパスに対して理解者として振る舞うんですが、
結果的に自分は刺されるし人質も亡くなってしまう。
分かってるようで実は何にも分かっていない人、
というのが終盤にかけて効いてくる作りになっていました。
引っ越した先の隣の家に住むのが香川照之演じるサイコパス西野。
ファーストコンタクトの段階で、
全然話が噛み合わなくて、今その話する?!という
いわゆる空気が読めない感がビンビン。
そんな彼が徐々に竹内結子演じる高倉の奥さんである康子に
少しずつ付け入っていくのが怖いんですよね〜
黒沢監督の作品はカメラの位置と光の扱い方が
とにかく不穏で効果的なのが特徴だと思います。
カメラの位置という点で印象に残っているのは、
西野の娘に康子が料理を教えて皆でご飯を食べるシーン。
高倉の疎外感がグッと引き立つ、
あのカメラ位置はたまらないものがありました。
岸辺の旅と部屋の構図が似ていて、
ダイニングの奥に暗めの部屋が用意されていて、
その2つの光の濃淡によるあっち側とこっち側の演出。
(康子がどうにもならなくなって以降は、
ダイニングにいることはほとんどなくなる)
光の演出という点では別事件として捜査していた
一家失踪事件で生き残った娘へのインタビューシーン。
ガラス張りの部屋で初めは非常に見通しがいいんだけど、
彼女が蓋をしたかもしれない当時の暗い記憶を
高倉が引き出そうとすると途端に画面が暗くなる。
こういった細かい演出の工夫が幾重にも施されていてて、
潜在的に恐怖が蓄積していく感じが楽しかったです。
また、本作は役者の演技が適材適所で、
それぞれが持ち味を大いに発揮しています。
僕が好きだったのは西島秀俊と東出昌大。
この2人の演技がドライで、感情が露呈するシーンが
前半はほとんどと言っていいほどありません。
明らかにおかしく見えるのは当然西野なんですけど、
実は2人もおかしいよね、、、っていう。
実在感が欠如したキャラクターというか、
話をしても通じないことがある点では、
西野と共通する部分さえあるように思えてしまう。
(インタビューにおける娘との距離感とか)
後半は一家失踪事件と隣人西野が徐々に繋がっていき、
彼の悪事が明らかになっていきます。
彼の手口としては自分の手は汚さずに、
薬物とマインドコントロールによって、
殺し合いさせてしまうという手口。
その助手となっているのが西野の娘で、
演じるのはソロモンの偽証において
最高の演技を見せてくれた藤野涼子。
彼女の業務的な死体処理の様がもう …って感じで。
あの掃除機のルックスよ!
何回かエスケープできそうな瞬間があるんですけど、
そのときに見せる子どもの顔とのギャップが
切なさを煽るんですなー
と同時に前半の馴れ馴れしい西野とのじゃれ合いが
フラッシュバックしてくる仕掛け。
西野の犯行に気づいた高倉は警察を呼んで、
捜索させようとするんですけど、
逆に高倉が警察に捕まってしまう。
そして取調室は冒頭で示された部屋と同じ部屋で、
今度は容疑者なので座る向きが逆になる。
さて、狂っているのは誰なんでしょうか?
と聞かれている気がしました。
繰り返しになりますが、間違いなく西野なんだけど、
ここまでの悲劇を迎えてしまうのは、
それなりに理由があるのだと言わんばかり。
終盤の直接対決も冒頭のシーンを踏まえていて、
以前はサイコパスと対話しようとしていた彼ですが、
奥さんを手ごめにされたことから、
感情的になってしまった結果が辿る末路、
そしてエンディングまでの流れが好きでした。
原作との比較も含めて、もう1回見れたら見たいところです。

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