2016年6月5日日曜日

ひそひそ星


<あらすじ>
類は数度にわたる大災害と失敗を繰り返して衰退の一途にあった。
現在、宇宙は機械によって支配され、
人工知能を持つロボットが8割を占めるのに対し、
人間は2割にまで減少している。
アンドロイドの鈴木洋子は、
相棒のコンピューターきかい6・7・マーMと共に宇宙船に乗り込み、
星々を巡って人間の荷物を届ける宇宙宅配便の仕事をしていた。
ある日、洋子は大きな音をたてると人間が死ぬ可能性のある
「ひそひそ星」に住む女性に荷物を届けに行くが……。

園子温監督最新作ということで、
公開終了間際になりましたが見てきました。
近年は職業監督モードで、漫画原作の作品を手がけていた訳ですが、
本作は完全インデペンデント。
そういう状況もあって、かなり内省的かつミニマルな作品。
園子温監督流のインスタレーション映画。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

蛇口から滴る水の音、やかんでお湯を沸かし、お茶を入れる。
この一連の作業を台所で行うところから物語が始まります。
家だと思っていたところが実は宇宙船。
その宇宙船には人工知能が積んであり、
人工知能と共に彼女は10年近く配達人として
宇宙を旅している人です。
人類は度重なる争いで激減し、人工知能が支配する世界。
トランスポーテーションが開発されているにも関わらず、
彼女は荷受人に直接手渡すという非効率に身を投じているんですね。
世界のどこまでもツーカーになってしまった中で、
「距離と時間への憧れ」が無くなってしまったと説明されているのが
かっこ良いなーと思いました。
「効率化向上を目指すのが資本主義」であり、
それが加速度的に進んでいるのが、
コンピューター、インターネット登場以降の現在の社会。
それが行きすぎた結果を本作は想定して描いていて、
人間が快適に生きるために作った世界なのに、
非常に窮屈な世界になってしまうという矛盾。
そんな中でギリギリの「人間らしさ」として、
配達人という設定がまた興味深いなーと思いました。
(ドローンによって配達される時代ですから)
本作は画面から提供される情報がとても少なくて、
前半の宇宙船での生活を延々描いているところは、
ちょっと退屈だったかな。。。
物語がドライブするのは彼女が初めて地上に降りるところから。
廃墟と化した街の中を彼女が歩いていくんですが、
この街中のショットの力強さはとても良かったです。
冒頭に福島県への謝辞がテロップで示されることから、
ロケ地が震災後の福島であることを観客は共有済み。
その廃墟で本作で唯一カラーになる瞬間があるんですが、
菜の花畑と海のコントラストが残酷なまでに美しくて、
「病む街」と思われるところでも光が差す瞬間を切り取っていて、
心が洗われるような気持ちになりました。
本作はほとんどインスタレーションに近いもので、
モノクロの画面、限りなくそぎ落とされた音。
観客が能動的にならないと、ポエティック空間を
見せつけられていると感じてしまうぐらいミニマル。
とくに音にフォーカスしていて、
人間は30db以上の音が発生すると死んでしまう設定があります。
これは言うまでもなく放射能のbqを意識しているものでしょう。
福島では音と同じレベルで放射能を意識しなければ、
生きていない空間になっているのである、
ということを示しているのかなと思いました。
空き缶を蹴る、踏む音を象徴的に扱っていて、
自らが生きていることを確認する音みたいに見えました。
そして空き缶は生の象徴としエンディングにも使われていました。
画に関して好きだったのは海岸の場面ですね。
まるで亡霊かの如く、
海岸に様々な人が不規則に立ち尽くしているんですよね。
否が応でも津波で亡くなった人を想起してしまう。
1軒のたばこ屋に配達するんですが、
そのたばこ屋のおばあちゃんの、この世ならざるもの感。
会話があるので生きているはずなんだけど、
机、タンスにたまる砂は先ほどと同様に死をイメージしました。
もともと詩人でもある園監督が詩の世界観を
ダイレクトに映像化したという印象が強い作品でした。
先日見た園監督と二階堂ふみの番組で、
今後はなるべく原作なしのオリジナル作品を撮っていく
という決意表明をされていたので、
今後の作品がまた楽しみになりました。

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