2016年6月12日日曜日

教授のおかしな妄想殺人



<あらすじ>
アメリカ東部の大学に赴任してきた哲学科の教授エイブは、
人生の意味を見失い、孤独で無気力な暗闇に陥っていた。
ある日、迷惑な悪徳判事の噂を耳にしたエイブは、
その判事を自らの手で殺害するという完全犯罪を夢想し、
次第にその計画に夢中になっていく。
新たな目的を見い出したことで、
エイブの人生は再び輝き出すのだが……。
映画.comより)


意味不明な邦題で全然覚えられそうにないですが、
ウディ・アレンの新作ということで見てきました。
フィルムグラフィーが膨大なので、
とりあえず新作は見てて、
ここ最近の皮肉丸出しの作品は好きです。
本作はミステリーと恋愛がかけ合わさった、
小気味よい小咄のようで、とても楽しかったです。
最近はオモシロそうな作品が、
たくさん劇場でかかっているので、
なかなかDVDまで手が回っていませんが、
時間とって過去作見ていきたいと思う次第です。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

原題はIrrrational Man。
「理性の無い男」とか「不合理な男」では、
客が入らないから前述の通り、
謎なタイトルになっていますが、
妄想ではないし、完全にミスリードだと思うし、
「おかしな」ってそれはテメーの主観だろうが、
と悪態をつきたくなるってもんです。
主人公はホアキン・フェニックス演じる大学教授エイブと、
その生徒であるエマ・ストーン演じるジル。
エイブが教えるの哲学なんだけど鬱気味で、
「哲学は言葉のマスターベーションだ」という
パンチラインを繰り出したり、
本物の銃でロシアンルーレットを行うくらい、
人生に対して生き甲斐を感じていない。
一方のジルは好奇心旺盛なハイソな学生。
バッチリ優等生な彼氏がいるんだけど、
エイブの複雑な魅力に惹かれていきます。
本作は2人のナレーションが随所に入り、
「あのとき…」といった過去形の口調で、
まるで回顧録を聞いているかのようで、
小咄感は構造によるものだと思います。
そんなエイブが生きる目的を見い出すのが、
悪人をぶっ殺すという分かりやすい正義の遂行。
社会的に絶対許されない悪を退治して、
その正義に酔いしれて自己実現を果たす
ということはドフトエスキーの罪と罰、
タクシードライバーでも描かれたテーマであり、
いつの時代にもあるなぁと思いました。
絶対許されない悪というところがポイントで、
殺人を決意するまでのエイブは、
グレイな態度というか、どっちでもいいじゃん
みたいなニュアンスだったのに対して、
決意してからは白黒はっきりしてて断定が強くなる。
この盲目っぷりが怖いんですよね。
哲学者としてどちらかと言えば批評のスタンスだった彼が、
180度変わって行動原理主義者へと変貌を遂げる。
「何か言ってても行動しないと変わらないんだよ!」
これは100%の正論なんだけど、その方向が殺人という
社会的には許されない行為なのでアンビバレント。
このアンビバレントな状況から僕が感じたのは
「行動せよ!」というよりは「考えろ!」
さらにいえば「rationalであれ」 ということ。
ただ、本作のタイトルのリファレンスとして
IMDBに載っているバーナード・ショーの一節は
こんなことを言っています。(1)

The reasonable man adapts himself to the world
: the unreasonable one persists in trying to adapt the world to himself.
Therefore all progress depends on the unreasonable man

要するに状況を変えていくのは常に分別がないやつだと。
ここもまたアンビバレントなんですわー
考えるのが楽しいタイプの映画とも言えるかもしれません。
irrational manなエイブは殺人を思いついてから、
意気揚々と生活し始めるんですけど、
そこに鬱屈さがないのが新鮮でオモシロかったですね。
迷いが消えたから人生楽しむだけ〜
といったスタンスで一線を越えまいと自重していた、
生徒のジルとも関係を持ってしまいます。
(遊園地デートシーンは最高最高!)
ジル親子とエイブが食卓を囲むシーンがあるんですが、
ここはウディ・アレン節が炸裂。
矢継ぎ早の会話の中で事件の真相に近づいていくのが
ハラハラするし切れ味抜群でした。
逆に殺人自体はジュースの入れ替えという
非常にシンプルなもので、あっさりしてました。
あと今回音楽がとても良くて、
大きくフィーチャーしているのはRamsey Lewis Trio
Wade In WaterとLook-A-Hereが
繰り返し使われていてかっこ良かったなー





終盤、ジルが徐々に真相に気付き始めてからは、
ヒッチコック作品のような趣がありました。
とくにラストのエレベーターシーンとか。
因果応報な結末も笑えましたね。
ルックとしてはちょうどいい湯加減だと思いますので、
デートとかに向いていると思います。

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