2016年6月13日月曜日

我々の恋愛

我々の恋愛

いとうせいこうさんの小説最新作。
フリースタイル・ダンジョンで
審査員を務めていることから、
改めてラッパーとして認識されており、
ユリイカの日本語ラップ特集のインタビューも
非常に興味深く読みました。
(TWIGYの自伝の帯を何故せいこうさんが書いているか?
それは自伝とユリイカ読むと明白になります。
ラッパーとしてのアティチュードの話)
多くの肩書きを持つせいこうさんですが、
小説家としての彼が僕は段違いに好きです。
僕が彼の著作が好きな理由は、
小説という古典フォーマットに
メタ展開を中心として毎回アグレッシブに挑んでいき、
読み手が想像しなかった世界へと誘ってくれる点です。
本作はある男女が恋に落ち、
恋人になるまでを描いた作品なんですが、
その内容を日本、ブラジル、オランダなど
世界各地の恋愛学者が報告書として残していたという設定。
存在しない小説でも海外文学タッチを
文体として取り入れるという仕掛けがありましたが、
本作の設定がもたらすのは、
恋愛という基本的に2人で成立するミニマルな人間関係に
学者たちの多くの視点が入り込むことで、
恋愛の多面性が浮き彫りになるということです。
また、海外の学者が多いので、脚注で日本の儀式やならわしを
馬鹿丁寧に説明するというギャグも楽しいんですよね。
その学者による語り口はそれぞれ異なっていて、
観察対象である男になりきって書いているものもあれば、
きっちりと三人称で報告書の体裁を守っているものもあったり。
読み込むと新たな発見がありそうな気がします。
僕が一番好きだったのは恋愛の距離感の話です。
時代は1995年なので携帯電話もまだない時代。
2人の恋愛は家電話のかけ間違いから起こります。
通信機器のここ数十年の異常な発達で、
恋人間の距離は極端に縮まっているなーと
本作を読んで改めて感じました。
だって2016年の現在は本気出したら、
今どこに彼氏/彼女がいるか分かるんですよ!狂気!
それと比べると牧歌的な世界が美しく思えてしまう。
単純に「あの頃は良かったなぁ」な懐古趣味ではなく、
「あの頃だから起こり得た恋愛の良さ」に
フォーカスしている点が好きでした。
とくに無言を共有できることの尊さは
確かになーと思いました。
また、2人の恋愛だけではなく、
年老いた男女の書簡も並行して描かれています。
この2人の恋愛未満感というべきか、
お互いを思いやりながら、活字だからこそできる、 
言葉を交換する行為がかっこいいんですよねー
そして、この男女が生きた時代は2001年。
1995年と2001年。日本人が記憶している喪失の年。
しかし、そんな時代でも「我々の恋愛」はそこにあった。
ラストは序盤から引用されていた、
この曲のサビのような景色が展開し大団円。
世界は恋愛に満ちている。



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