2016年6月24日金曜日

葛城事件



親が始めた金物屋を継いだ葛城清は、

美しい妻・伸子と共に2人の息子を育て、
念願のマイホームも建てて理想の家庭を築き上げたはずだった。
しかし、清の強い思いは知らず知らずのうちに家族を抑圧し、
支配するようになっていた。長男の保は従順だが対人関係に悩み、
会社をリストラされたことも言い出せない。
そして、アルバイトが長続きしないことを清に責められ、
理不尽な思いを募らせてきた次男の稔は、
ある日突然、8人を殺傷する無差別殺人事件を起こす。
死刑判決を受けた稔は、死刑制度反対を訴える女・星野と
獄中結婚することになるが……。

赤堀雅秋監督最新作。
その夜の侍がわりかし好きっだったので見てきました。
舞台作品の映画化らしいんですが、
日本のかつての象徴である旧態然した父性が
ガラガラと音を立てて崩れていく様子を
まざまざと見せつけられる、
容赦ない内容でオモシロかったです。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

本作は葛城家という家族にまつわる話で、
家族は父、母、息子 ×2という構成です。
あらすじにもあるように次男が無差別殺人を行い、
死刑判決を受けたところから物語が始まり、
その判決以前/以後を交互に描いていきます。
冒頭は三浦友和演じる父が 自宅の壁に描かれた
落書きを消しているところから始まります。
また、庭で何気なく水やりしているんですが、
これはラストで強烈なインパクトを残すことに …
判決以後のシークエンスの中心となるのは、
稔と獄中結婚する田中麗奈演じる星野です。
彼女は稔に愛する人がいれば人として更生できるんだ!
その役目を担うのは私なのである!そして死刑反対!
と声高に訴えて稔の元に通い続けます。
いきなり、偽善色強めのキャラクターが登場して、
ちょっと乗れないなぁと思っていたんですが、
彼女がいないとあまりにも酷い現実に
直面せざるを得なくなるため、
ある種のバッファーの役目を担っていました。
理想を掲げなければ、人間は生きられないとでも言わんばかり。
最初の面会で星野が差し入れで
ベーグル持ってくるんですが甘い菓子は食べないとたしなめる。
しかし、缶コーヒーは砂糖入りしか飲まないと伝える。
矛盾した嗜好をブチ切れて叫びまくる。
このトバしっぷりでツカミは抜群でした。
この稔を演じているのが若葉竜也という人で、
今回初めて見たんですが素晴らしかったです。
類型的なオタクっぽい人といえば、それまでなんですが、
自分がうまくいかないのは他人、環境のせいと考えている一方で、
何かを成し遂げて一発逆転してやるという気概を併せ持つ。
この2つが間違った方向に結実したことで
無差別殺人を起こしてしまったように感じました。
終盤にその殺人シーンが用意されていたんですが、
ニュースのインタビューに答えることになるだろう、
目撃者の視点はフレッシュでオモシロかったです。
刺す場面はヒメアノールと比べると見劣りする感じでした。
(そこが主題の映画ではないので無問題)
何と言っても最大の見所は三浦友和!!
先日見た64ではどっしり構えた安定感のある、
警察の父のような役目を担っていました。
本作では父親を演じているんですが、
いわゆる保守おじさんで事態の深刻さに気づいていません。
グラグラで不安定な状況において
家長制度に代表される旧態然とした
父の役割を果たそうとするんだけど、
それを果たすことができず、
結果的に家族が崩壊していく様は
露悪的かもしれませんが痛快でした。
自分の価値観を絶対として、
家族がそれにフィットしなければ間違い、
っていう考え方は本当に嫌なものだと感じました。
また、様々な小言を含めた、その傲慢に見える態度が
家族を支えていると彼は信じているけれど、
実際には崩壊へのアクセルをベタ踏みしている、
そのことに気づかないのは裸の王様っぷりは切なかったです。
古〜い家族観を押し付けてくる、
選挙が近いどこかの国の与党の人に見て欲しいものです。
家族の崩壊の象徴としての食べ物演出が、
超徹底されていた点がオモシロかったです。
彼らの食卓には一切自分たちで調理したものが登場せず、
ピザ、寿司、コンビニの弁当など、
出来合いの食べ物しか食べていませんでした。
また、一緒にご飯を食べることもほとんどありません。
主人公の家族が1人でご飯を食べるシーンが
明らかに多いんですよね。
これらの演出は福田里香さんが唱えるフード理論でいえば、
この家族が上手くいかない、互いを理解する姿勢さえ、
持っていないことを示していす。
(伸子と稔で交わされる最後の晩餐の選択肢までも!)
稔と父はとても仲が悪いんですが、
2人はどうしたって家族だということを
冷蔵庫にある牛乳パックの直飲みで見せるあたりも好きでした。
落ちこぼれの稔を諦めた中で期待を一身に背負うのが長男の保。
新井浩文が演じています。
僕は自分が長男なので彼に一番感情移入して見てました。
彼は家を出ていて家族を養う父でもあります。
必要以上にパリッとしたスーツと
リストラされた状況のギャップがとても辛かったです…
繰り返される公園での引きのショットがもの悲しさを誘う。
そして彼は自殺するという最悪の結果になります。
ここでの母と 保の奥さんの直接対決シーンが良くて、
リストラされていたことに気づかなかった奥さんを
母が「家族なのになんで分かんなかったの?」と攻め立てる。
これが息子の無差別殺人という、
とんでもないブーメランとして
自らに跳ね返って来るんだから、
そら精神崩壊するわなーと思いました。
家族は多くの場合、血が繋がっているし、
同じ屋根の下で長い時間を過ごしているので、
お互いを理解しやすい環境にあります。
しかし、家族はあくまで自分ではない他人です。
この割り切りがときには必要なのかなとも思いました。
つまり、家族を同人格とは見なさない
ということが必要なんじゃないかと。
判決後の父には変化があって、
一度は洗濯物で絞め殺そうとした息子でも、
やっぱり死刑にはして欲しくないという気持ちが芽生える。
そこから 死刑が執行されてからの、
父親の荒れっぷりが最高最高!
とくに星野を抱こうとして拒否されたときに、
何としても「家族」を続けたい一心で放つセリフが、
切ないと同時に偽善者を正論で追い込むというねー
その前にインサートされる家を購入した当時の懐古シーン、
稔からのメッセージを期待するところなどが
事前に展開されるので、むちゃくちゃズーンときました。
からの〜家を派手にブチ壊す荒れっぷり、
大事なみかんの木と掃除機のコードを使った自殺。
けれど彼は生きなければならない、
それは食べることであるというエンディングも
前述のフード演出のフリが効いていて良かったです。
もしかしたら2016年の邦画は新たなフェーズに突入しているかも
と思わされる作品でした。

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