ほんなら買いますわ、ぐらいの勢いで読みました。
又吉直樹さんの新書。
昨年読んだ火花は大切な小説になりましたし、
その前に出された東京百景は、
1つの上京論でもあり、東京エッセイとして
抜群の切れ味がありました。
東京で新たに街を訪れた際には、
取り上げられてないかなーと再読しています。
本作は彼の語り下ろしを構成、編集したもので、
本人の加筆・修正があるにせよ、
彼自身が書いた文章ではないのが残念でしたが、
内容はとてもオモシロかったですし、
共感することが多かったです。
6つの章から構成されていて、
自身の生い立ちから始まり、本との出会い、
創作にまつわる考え、なぜ本を読むのか、
近代、現代文学のレコメンドなどなど幅広く書かれています。
僕が好きだったのは創作にまつわる考えと、
なぜ本を読むのかについて書いている章です。
創作に関しては、非常にシビアな視点が見えました。
とくに芥川賞受賞で話題をさらったこともあり、
作品の親である彼自身の葛藤と少しの怒りを見ました。
(怒りといってもかなりマイルドなものですけど)
文学の可能性を信じているからこその思いが強く、
火花を巡る言論に対する意見はなるほどなーと思いました。
「芸人」が書いた「小説」というフレームで、
文学に愛の無い人から、あーでもない、こーでもないと
言われたのは辛かったことが推察できましたし、
文学の内容の議論にならないのが悲しいというのはもっとも。
甘噛みするだけして、味しなくなったら捨てる、
みたいなことやってたら文化なんて育ちませんで。と思います。
本作の主題とも言える、なぜ本を読むのか?
というテーマは心にグサりと刺さりました。
「共感」「有用」という物差しで必要/不必要を簡単に判別して、
共感できないものは排除していく。
そんな最近の風潮に抗うのが小説であると彼は言います。
共感できないということは新しい感覚であり、
自分が新たな視座を獲得したということである。
要するに他者の気持ちを理解できる素地が広がったということです。
パンチラインだなと思ったのは以下の文。
「二択の間で迷っている状態を優柔不断と呼ばないで欲しい。」
選択の結果、自分がどう見られるかを含めて、
精一杯自分で考えることが小説を読むことで可能になる。
そもそも小説を読む行為って効率の観点から考えれば、
かなり無駄が多い行為ですよね。
情報は文字だけ。1冊に含まれる情報を取得するのに、
音、映像よりもはるかに時間かかる。
能動的な「読む」という行為が必要ですし、
内容がオモシロいかどうかは最後の最後まで分からない。
そんな無駄な行為に耽溺したくなるのは人間の性でしょう。
同じ言葉でも文脈によって感じ方は変わるし、
何回も読み直すことで、これまで気付かなかった魅力に気付いたり。
読書の魅力が多いに語られています。
個人的に一番しっくりきたのは、
作家が何かを獲得している瞬間を目撃する醍醐味かな。
また等に関する話もとても興味深くて。
答えがあることを前提にしている自己啓発書よりも
悩みに悩んでいる小説の主人公の姿を見ることで、
他人から教えてもらうのではなく、
自分の中から答えを引きずり出すという
表現がめちゃめちゃカッコいいなと思いました。
どうしようもなく孤独の夜があっても、
本があれば乗り越えられると思いながら、
遠藤周作の沈黙を読んでいます。
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