2016年2月24日水曜日

牡蠣工場



想田監督最新作ということで見てきました。
演劇以外はすべての作品を見ていて、
どの作品も毎回新鮮な驚きを持って楽しんでいます。
また著書も結構読んでいて、
特に「なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか」は
繰り返し読んでいる名著です。
本作は岡山の牛窓の牡蠣漁に密着した
ドキュメンタリーなんですが、
そうとは思えないリーチの距離に驚きました。
事前にテーマを設定しないで撮影した素材から
テーマを炙り出す、監督言うところの「観察映画」
とは思えない事態の連続でめちゃめちゃ興味深かったです。
しかし、それがTVやニュースで取り上げられる社会や政治の話は
生活に密着した身近なものですよという
逆説的なメッセージなのかなーと思ったりしました。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

映画冒頭、猫のアップから始まり、
前半はひたすら牡蠣漁がどういったものなのか?
じっくりと描写していきます。
当然のことながら余計なナレーション、テロップは一切なく、
ひたすら漁の様子を見守っているような視点が続きます。
牡蠣を大きな機械で引き上げて、それを漁港へ持ち帰り、
むき子と呼ばれる牡蠣剥きの人たちがひたすら牡蠣を剥き続け、
ガラはベルトコンベアでトラックの荷台まで運ばれていき処分する。
剥かれた牡蠣はトレーに入れられて出荷される。
そして牡蠣かご、剥き場所の掃除で1日が終わっていくという流れ。
ただひたすら仕事の様子を追っているだけなので、
退屈に映るかもしれませんが、このパートによって
多くの人にとって遠い存在である、
牡蠣漁師がグッと身近なものになりました。
また、後半同じ仕事でも登場人物や牛窓の背景を踏まえて、
再度同じ仕事を見たときの印象が
変わってくるという前フリの要素も兼ね備えています。
牡蠣漁で印象に残ったのは
アナログとオートメーションのバランスです。
多くの部分が機械化されていますが、
最初に牡蠣をピックアップするところ、
そして殻を剥く作業は手作業です。
とくに殻剥きの職人作業っぷりは見てて惚れ惚れしましたし、
オートメーション化が進む都会に住む僕の目には
漁の作業すべてが新鮮に映りました。
本作が内包する社会的問題の側面として、
①311以降の福島を中心とした原発問題と
② 地方過疎化の人手不足に伴う中国人出稼ぎ労働が
主に挙げられると思います。
①は本作の主人公と言ってもいい渡邊さんを通じて描かれています。
彼はもともと牡蠣漁師なんですが、
311で被災し福島から岡山へ越してきた人です。
はっきり言って分かりやすい物語と思われるかもしれませんが、
本作がオモシロいのは、どや顔で問題を強調せずに
あくまで人間の生活の延長線上にその問題が
存在するという描き方をしている点です。
中国からの労働者用のプレハブ設置するときに、
「福島のプレハブはこれ?」と言ったところから展開する、
渡辺さんの表情、発言はヒリヒリするものがありました。
また冒頭で漁をしているのは渡邊さんなんですが、
最初見たときには牛窓に長年住むベテラン漁師に見えました。
しかし、彼の背景を知ってからは
牡蠣漁をしている姿や娘さんの存在が異なって見えて、
その土地で生きるという覚悟を垣間見た気がします。
丁寧な説明が無いからこそ出てくる奥深さは
観察映画の特徴だと言えるでしょう。
メインとなるのは②の話。いわゆる「グローバル」化現象。
僕は「グローバル」というよりも
世界がより「フラット」な場所になっている印象を
本作から受けました。
それは冒頭および劇中でたびたび登場する
猫が象徴しているものであるということは
監督自身もインタビューで語っています。
福島からの避難も中国からの出稼ぎも、
自分の場所があったとしても、
そこを追われたり、居心地が悪いときには、
平衡に至る点を求めて世界を
自由に行き来できる点においては猫と変わらないと。
それが良いのか、悪いのかという安易な二元論に
落とし込むのではなく思考を促された点が好きでした。
中国の出稼ぎ労働者の2人の男性が
働き始めるシーンはかなり好きで、
初めて行く職場で空気読みまくって、
何とか早く役に立てるようになろうとする姿は
働いたことのある人なら誰でもグッとくると思います。
(彼らは英語も日本語も話せないんだから、
不安でしょうがないに決まっているのに。。)
さらに本作を魅力的にしているのは、
牛窓の牡蠣漁師やむき子の人たちです。
若いころはヤンチャしてそうな人たちの温かさ、
独特のヴァイブスがオモシロかったです。
(撮影のモノマネのくだりとかくだらなさ過ぎ!)
そんな中で、映画内でヤラセに言及するレベルの大事件は
映画に没入しているが故、まるで自分も彼らと一緒に
目撃した当事者のような気持ちになり興奮しました。
当事者意識という点でいえば、
映画の撮影が中止になるかもしれない展開も
とてもハラハラしましたねー
全体で140分と長めではあるものの、
後半のドライブ具合は凄まじく、
ラストあはもっと見せて!と思っていました。
今、観察する男という想田監督の著書が出ていて、
これは本作のメイキング本になります。
いろいろ答え合わせしたり、
撮影当時の裏話も知れて楽しいので、
本作を見た方は必読かと思います。

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