2016年8月6日土曜日

あなたを選んでくれるもの

あなたを選んでくれるもの (新潮クレスト・ブックス)


安定の新潮クレストブックス。
昨年にリリースされて気になっていたまま、
すっかり読むのを忘れていて、
書店の新潮クレストコーナーで
先日見かけて即買いしました。
(裏表紙コメントは津村記久子!)
「いちばんここに似合う人」で小説家として
有名となっていますが、映画の脚本家でもあるミランダ。
彼女が脚本のアイデアに煮詰まったところで、
アイデア出しとしてフリーペーパーで
広告を出している人たちにインタビューを敢行。
脚本の作成過程を描いたドキュメンタリー作品です。
12人の市井の人にインタビューをするという、
社会学の聞き取りのようなアプローチなんですが、
ヤラセか!と思わず疑っちゃうくらい、
登場人物のキャラクターが超強烈。
インターネットありきの社会になって久しく、
大抵のことは検索すれば分かるようになりました。
ゆえに何もかも分かった気になってしまうことが多い中で、
本作がリーチしているのはインターネットの外側であり、
登場する人物は皆PCを持っておらず、
インターネットを使っていない人ばかり。
目の前の現実に対して精一杯生きる彼らの姿が
かっこよく見えるんですよね。
これまでに読んだ作品だと
岸政彦さんの街の人生という作品に近いんですが、
脚本を書くという大きな筋が1つ入り、
筆者の心情変化が克明に刻まれているため、
単純なインタビュー集にとどまっていません。
とにかくミランダはウルトラヘビー級のパンチライナー。
繊細さと大胆さを兼ね備えたパンチラインの数々は、
他者を理解することの難しさと、
自分の人生との向き合い方について
深く考えさせられました。
最後に出会ったジョーというおじいさんの話は、
まるで小説のようなお話で、
そこからの本作のドライブのかかり方が抜群で、
涙なしには読めなかったです。
物語の力を信じる作者だからこそ生まれた傑作。

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