2016年8月14日日曜日

あなた、その川を渡らないで



最近、ある程度情報を持った状態で
映画を見に行くことが多くなってしまい、
未知の作品を劇場で見ることが少なくなりました。
そんな中でマイメンのオススメ作品を見てきました。
サラの状態でこれほどふさわしい作品はなくて、
最後の最後まで目が離せなかったですし、
家族とか死ぬことについて
向き合わざるをえませんでした。

※ここからは盛大にネタバレして書きます。

土山を右手に、泣いているお婆さんが収まった
印象的な引きのワンショットから始まり、
映画はこのシーンに至るまでを描いていきます。
舞台は韓国の田舎で主人公は老夫婦。
老夫婦といってもお爺さんが95歳で、
お婆さんが78歳という超老夫婦です。
前半は田舎町での2人の暮らしぶりが中心で、
非常に牧歌的なシーンが続きます。
初めに目を引くのはお爺さんのいたずらで、
2人で庭の枯葉を掃き掃除していると、
お爺さんが突如お婆さんに枯葉を投げつける。
2人はまるで子供のようにじゃれあうんですが、
高齢者の茶目っ気なんて普段の生活で目にしないから、
とてもビビッドに見えて微笑ましい気持ちになりました。
この後、雪かき中に雪合戦したり、
お婆さんが川で洗濯しているところに
石を投げ込んだりと茶目っ気が随所で炸裂。
結婚して70年近く経っているにも関わらず、
まるで付き合いたての恋人かのように振る舞う2人は
甘酸っぱいとしか言いようがなく、
観客が感情移入する導入として秀逸だと思いました。
また2人の身なりも特徴的で
街に出かけたり、家に客が来るときには
お揃いの色のチマチョゴリで必ず着飾ります。
家の様子を見る限りお金持ちとは言えない中で、
身なりだけでも…という姿勢は
サプールみたいでかっこいいなと思いました。
チマチョゴリの色がビビッドなカラーであることも
殺風景な街中で彼らが生きていることを示すサインでしょう。
お爺さんは何の病気かは分かりませんが、
重い咳をしていていて徐々に体調を崩していくのが後半。
お婆さんの誕生会が開かれるんですが、
このシーンが一番辛くて泣いてしまいました。
死を間際にして老夫婦がまるで重荷のように扱われ、
息子、娘たちが目の前でいがみ合う。
この手前に、何度か老夫婦が街を訪れるときに、
家からヨボヨボ歩くシーンが配置されているため、
余計に息子、娘たちがぞんざいに扱っているかが
際立つ見せ方になっているのが巧み。
しかも、その歩くシーンで横をタクシーが走り抜けるという、
おそらく金銭的に息子、娘は援助していないことが伝わってくる、
少し残酷さを感じさせるものでした。
また、2人のこれまでの経緯も作品内で語られていくんですが、
子どもを6人も亡くしているという悲しい過去が明らかに。
そこからのパジャマ購入のくだりと
飼っている犬のうち1匹が死に、
もう1匹が6匹の子どもを産むという、生と死の対比の濃厚さは圧巻。
人は死んでいくし、新たに誕生もする諸行無常を感じました。
また本作を語る上で避けられないのはリアリティラインだと思います。
エンドロールでドキュメンタリーであることが
明らかになるんですが、僕はかなり恣意性を感じました。
ドキュメンタリーは嘘をつくじゃないですが、
100%の客観性を持ったドキュメンタリーなんて存在しなくて、
編集、撮影といった様々な段階で作者の意図が
必ず含まれることは重々承知しています。
ただ本作は現場を撮影して繋ぎ合わせたというより、
いくつか指示があって作者が欲しい
アングルを作っている気がしました。
それが悪いと糾弾するつもりは当然ありませんし、
僕がそう思ったシーンはグッとくるものばかりでした。
ただ、そこまで分かりやすさを付加しなくても
という気持ちも捨てがたく。
タイトルにもあるように川を渡る/渡らない、
つまり生死の世界が曖昧で
その刹那を描くというテーマを考えれば、
然るべき演出と捉えることもできるかなーと思います。
終盤は死に行くお爺さんを思うお婆さんの
健気さがとにかく切ない…
服を順番に燃やすシーンで再び涙腺が決壊しました。
人生で誰もが迎える瞬間の数々を
克明に描き出しているので節目節目で思い出しそうな作品です。

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