2016年8月24日水曜日

七帝柔道記

七帝柔道記


木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか
VTJ前夜の中井祐樹と続けて読み、
柔三部作の締めとして本作を読みました。
こちらも血がたぎる本当に素晴らしい作品でした。
しかも、この三作が文で繋がり有機的に絡み合うことで
柔の魂が共鳴していく様がめちゃくちゃカッコイイ!
これらの作品を読むまで
「柔道は暑苦しくてちょっと苦手〜」
とか思っていた自分がとても恥ずかしく思います。
また、この柔道熱が高まっているタイミングで、
リオオリンピックが行われていて、
初めて楽しんで見ることができました。
とくに100kg超級の決勝、
原沢vsリネールは歯がゆさを感じたものの、
柔道のこれまでの流れを知っていると、
今のルールの欠点と可能性が分かって勉強になりました。
余談はさておき、本作は著者である増田俊明 さんの
半自伝的小説となっていて、彼が北海道大学に入学し、
寝技に特化した七帝柔道に捧げた青春が描かれています。
ゴリゴリの体育会系物語で、
漢たちが強くなる過程が克明に刻まれており、
理不尽さを含めてスポーツに一生懸命に
取り組んだ経験を持っている人は
誰しも自らの体験を思い出すことでしょう。
直接関係がない読者の個人的な体験を思い出させるほどに
練習や試合の描写が生々しくて読んでるだけで汗をかくレベル。
七帝柔道はオリンピックや通常の学生柔道と異なり、
技ありで勝つことはできず1本取らないと勝てない。
また寝技膠着によるブレイクがなく寝技中心の試合。
こういった背景から大学で白帯から始めた人でも、
強くなることができるという特別な柔道です。
ゆえに「練習量に正比例して強くなる」という考えが強くあります。
この考え方は諸刃の刃で、ときに自分を鼓舞することができますが、
弱いとされれば練習量が足りてないことになり追い込まれる。
本作の中でも大部分は練習の場面で、
現代であれば非科学的だ!と断罪されてしまう、
あまりにも過酷な練習の数々は息が詰まります。
本作で象徴的に扱われているのは練習最後に皆で行う腕立て。
もっとも非科学的練習なんだけど、
「効果がある/ない」ですべてが測られる世界ではないんだと
主人公が七帝柔道の世界へのめり込んでいく、
その瞬間を捉えていて素晴らしかったです。
また柔道部員のキャラがしっかり立っていて、
それぞれが異なるオモシロさを持っているがゆえに、
物語が豊かな世界になっています。
無類に強い人もいれば、どうしたって弱い人もいる。
その弱肉強食の世界の中でも、
人間くさい情の部分がそこかしこに見られ、
読んでいる人の心を揺さぶってくる。
僕が号泣したのは主将の金澤さんが、
主人公に対して試合直前にかける
「おまえ、俺たちのために死ねるか」という言葉。
これだけ読むとクサいと思われるかもしれませんが、
それまでの2人の関係性を踏まえると
泣くに決まってんだろうが!
自分のためには頑張れないけど他人のためなら頑張れるという、
強烈な仲間意識に共鳴しない人はいないと思います。
また、最後に分かりやすいカタルシスを用意しない、
「強さ」への真摯な姿勢には驚きました。
事実がどうだったのかは分からないですが、
小説なのでOnce Again!の大団円でも良かったのに…
悲しくて悔しくてここでも泣いてしまったよ!
自分の弱さと向き合い、強くなることの尊さを
感じさせてくれる名著だと思います。

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