2016年7月2日土曜日

異郷の友人

異郷の友人


上田岳弘最新作ということで読みました。
デビュー作の太陽、2作目の私の恋人と
共にオモシロかったですし、
本作は昨年の芥川賞にもノミネートされています。
「吾輩は人間である」というナメた出だしから始まり、
これまでの作品に続き超人間が主人公として登場。
主人公である山上甲哉の能力としては以下があります。

①輪廻転生していてその時々の記憶をすべて持っている
②同時代に生きる他人の意識を覗くことが可能

上田さんの小説には必ずこの超人間が登場し、
その人を巡って物語が進んでいきます。
彼は繰り返す輪廻転生の中で、
時代の中心で生きるのに疲れたので、
今回は小さな人生を生きようと
北海道でサラリーマンをしています。
前半はミステリー要素が強く、
複数の謎の登場人物が出てきて、
人種も性別も住む場所も異なる人たちが、
どういった関係を持つのか?
という興味でグイグイ引っ張られます。
特に登場人物のEとJの関係は
中村文則作品に出てきそうな、
得体の知れない不条理を描いてるので、
読む人によって楽しめる部分が色々あるかもしれません。
大きな軸をなすのはSという人物で、
彼は淡路島で起こった新興宗教の教祖です。
彼の唱える「大再現」に興味を持った、
アメリカに住むハッカー集団が日本にやってきて、
点で存在していた物語が集約していく。
神を巡る議論はいろいろと展開されるんですが、
Sの宗教が新自由主義的な思想だったり、、
モンスターエンジンのヒットネタである、
「神々の遊び」のまさかの引用など、
アクロバティックな展開が多くてオモシロかったです。
そして最大の魅力は②の能力による意識の混濁。
Sも同じ能力を持つため、
ループ構造のようなものが出来上がり、
居酒屋でそれが決壊する場面が
集合知のように見えるのがフレッシュでした。
終盤、淡路島→北海道→宮古(岩手)を転々と移動し、
最後を迎えるその日付は3月11日。
津波が襲ってくる訳ですが、
その描写が客観的でもあり叙情的でもある。
というバランスでかっこ良いなと思いました。
時間が経った今だからこそ書ける表現と感じます。
日本に生きている以上、
3.11以前以降で考え方が変わるのは当然として、
それを終末論として捉えることへのアンチテーゼ、
要するに「人間なめんなよ!」
と最後に言いたくなる小説になっていました。

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