2017年9月27日水曜日

塔と重力

塔と重力



上田岳弘最新作。
新刊出たら必ず購入している作家の1人で、
本作も楽しみにしていました。
結果的に2回読んだんだけど、
今回も上田節健在!といった内容でオモシロかったです。
上田さんの小説の何が好きかといえば、
SFと文学のバランスの良さです。
完全にSFという訳ではなく、
SFのモチーフを使った純文学とでも言えばいいのかな?
SFの設定が近年のトレンドを汲んでいるので、
突拍子がない様に見える中にも
「もしかして近い将来あるのかも…?」
と思わせられてしまう。
表題作がメインに据えられていて、
スピンオフ的な短編が2作収められています。
以前から集合知の考え方を作品で提示していて、
それを「肉の海」という言葉で表現していましたが、
本作でも大筋としてズレはない。
ただし、本作は過去の作品に比べて
かなり卑近な物語になっていました。
僕がオモシロいと思ったのは、
人間の個性をパターンの組み合わせと考えるところ。
これだけ演算技術が高まった世界で、
なおかつAIが本格的に活用される時代において、
自分という存在は本当に唯一無二?
もうすでに存在しているパターンの
組み合わせの1つにしか過ぎないのでは?という問い。
また、自分は下界で生きる器でしかなく、
本当の自我は別のところにあるっていう、
マトリックスに代表される設定も、
「小窓」から世界を覗くという表現になっているのが
「肉の海」と同様の感覚でオモシロい。
ハイテクな話って横文字使って
かっこ良く言いたい願望ってあると思うんですけど、
それに冷や水ぶっかけてるみたい。
あとFacebookを使った展開がフレッシュかつ、
確かに!と思うところ山の如し。
全体に厭世観が漂っているものの、
ラストは性→生へとランディングしていくので
読後は比較的穏やかな気持ちになりました。
次作も必ず買います。

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