2017年9月13日水曜日

散歩する侵略者



<あらすじ>
数日にわたって行方がわからなくなっていた
夫・真治がまるで別人のように優しくなって
帰ってきたことに戸惑う妻・鳴海。
それ以来、真治は毎日どこかへ散歩に出かけるようになる。
同じ頃、町で一家惨殺事件が発生し、不可解な現象が続発。
取材を進めるジャーナリストの桜井はある事実に気づく。
不穏な空気が町中を覆う中、
鳴海は真治から「地球を侵略しに来た」
という衝撃的な告白を受ける。
映画.comより)

黒沢清監督最新作。
クリーピーきっかけで過去作を結構見ましたし、
本も読んでますます監督の世界観が好きになりました。
ただメジャー系作品でいえば、
リアルという作品が僕はあんまり好きではなかったので、
少し不安も抱えていましたが杞憂でした。
他の人にも薦めやすい分かりやすさと
いわゆる黒沢節のバランスがちょうど良かったです。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

バランスが…とか言いましたが、
映画のイントロはとてもイビツで、
物語の世界観をここで決める!
という意気込みさえ感じました。
クリーピーに引き続き門扉ごしのショットの先で
起こる陰惨な出来事はとてもショッキング。
「このぐらいは当たり前に起こるのでよろしく」
と言わんばかりの勢いでした。
タイトルからも分かる通り本作はSFの宇宙人ものです。
宇宙人といえばポールのような
皆が共通でイメージする形がありますが、
本作では人間を乗っ取るという設定になっていて、
見た目は完全に人間のまま。
宇宙人は侵略する世界に適合するために、
人間の「概念」を奪い取る。
そして奪い取られた人間は、
その「概念」を持たない人間になってしまう。
「概念」を巡るやり取りが本作の肝で
めちゃくちゃオモシロいんですよねぇ。
「家族」、所有の「の」、「仕事」という概念を
奪い取って主人公の真治が理解していく過程も
然ることながら奪い取られた側の人間の変化が
最大の見所になっています。
僕が一番好きだったのは「仕事」を取られた鳴海の上司。
初めこの上司はザ・仕事人といった感じなんですが、
真治に仕事の概念を奪い取られた後の、
オフィスでの立ち振る舞いが最高過ぎ!
童心というレベルではない、
イイ意味でのふざけっぷりを光石研が
文字通り体現していてめっちゃ笑いました。
真治と鳴海は、真治が宇宙人になる前、
夫婦関係があまりうまくいってなかったことが
見ていて分かるんですが、安易に回想入れないところも
黒沢節というか思いっきりのよさを感じました。
黒沢監督の特徴である光の使い方と
ワンカットへのこだわりを注目して見てたんですが、
それらは本作でも冴えていたと思います。
前者については光石研のシーンがもっとも特徴的でしたが、
全体にずーっと曇天というのも世紀末な感じで好きでした。
後者については引きのワンショットは少なかったですが、
移動しつつ実はワンカットみたいなのが多かったです。
(ぐるぐる回転させるやつがフレッシュで好きでした)
俳優陣がとにかく豪華なのも本作の見所の1つ。
主演の2人は然ることながら、
脇を固める近年の黒沢組の役者陣もすばらしかったです。
松田龍平と黒沢清の相性はかなり良い!
朴訥で何考えているか分からない系と黒沢監督作品の
相性は抜群なので、松田龍平は今後も出演あると思います。
(今回の東出君のように。
宇宙人じゃないのにヤバいヤツに見えるっていう…)
宇宙人は感情が平坦なので映画内のエモーショナルを
メインで担うのは長澤まさみと長谷川博己。
長谷川博己は超エクストリーム系の役は
今一番ぴったりくるなーと終盤にかけて思いました。
終末思想の慣れの果てはバッドエンドなんだ、いつだって。
長澤まさみは瞬間瞬間の魅力が凄い…
「もう、やんなっちゃう!」っていうセリフに
違和感がまったくないところとか。
宇宙人に乗っ取られ別人になっているはずの
真治に自然と惹かれていくところとか。
ラストの「愛」の概念を巡るシークエンスは
どんな恋愛映画よりも純度が高い形で、
愛の必要性が分かる仕掛けになっていて素晴らしかったです。
All we need is love.
ダゲレオタイプの女を見ていないので、
それを早く見ねばと思っております。

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