2017年9月14日木曜日

三度目の殺人



<あらすじ>
勝つことにこだわる弁護士・重盛は、
殺人の前科がある男・三隅の弁護を仕方なく担当することに。
解雇された工場の社長を殺害して
死体に火をつけた容疑で起訴されている三隅は
犯行を自供しており、このままだと死刑は免れない。
しかし三隅の動機はいまいち釈然とせず、
重盛は面会を重ねるたびに、
本当に彼が殺したのか確信が持てなくなっていく。
映画.comより)

是枝監督最新作。
黒沢監督と是枝監督の最新作が
同時期にかかっているという、
フィルシネにとって最高の秋が訪れている訳ですが、
本作も超弩級の作品でした。。
真実とは?ということが
21世紀になってこれだけファジーになることを
一体誰が予見したでしょうか?ということを
最近考えたりします。
(テクノロジーがこれだけ発展したにも関わらず)
その問いについて日本の法廷を使って、
是枝監督がそのまま映画にしたような作品でした。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

物語の基点となる役所広司演じる三隅が
クビにされた勤め先の社長を殺すシーンから
映画は始まります。
誰が殺したのか、そしてその動機を巡って
物語が展開される法廷サスペンス。
そして、父になる以来のましゃが演じるのは
非常にドライな弁護士。
依頼人である被告の刑が少しでも軽くなることを
仕事にしている弁護士にとっては、
真実なんてどうでもいいという割り切った考えで、
何とか三隅の自白を覆すような戦術を考えていきます。
ましゃは本当にドライで高飛車な男を演じさせたら、
右に出るものはいない気がします。
作りとしては、そして、父になるに似ていて、
ニヒリスティックな男があることをキッカケに
心が動かされてエモーショナルを取り戻すというもの。
この揺り戻しのエモさとドライのギャップを
どこまで出せるかが映画のオモシロさに直結する訳で、
今回もましゃはその点が抜群でした。
さらに今回はそこへ役所広司をかけ算しているので、
観客の心の深いところへグッと迫ってくる。
役者の力だけではなく閉塞感のある画作りも特徴的で、
顔のクローズショットがめちゃめちゃ多くて、
スクリーンから感じる顔圧に圧倒されました。
抜けの良さがあるのはましゃが夢見た、
主役3人が雪山で遊んでいるシーンくらい。
争点になるのは強盗殺人か、単なる殺人か、
ここで死刑かどうかが決まる。
劇中でも言及されていましたが、
量刑の件は確かになーと思いました。
人が1人亡くなったという結果は同じだとしても、
動機の部分(金 or 怨恨)で被告が死ぬ/死なないが決まる。
論理的な考えに対して人間の主観が介在している
なんとも言えなさを見ている間に感じました。
とくに途中で三隅が無罪を訴え始めたときの
検事、弁護士、裁判官の談合シーンは見るに堪えない。
本作では何が真実なのかが明確に語られません。
ここが僕は好きな部分で、その象徴が役所広司演じる三隅。
毎回、会う度に異なる証言をする彼の姿は、
虚言癖という一言では語りきれない
底知れない闇の深さと理知的な部分のバランスが
とても恐ろしく思えました。
新しいサイコパス像とでも言うべきか。
命の取り扱いへの言及も興味深くて、
平等なんてものはなく取捨選択されているのが実情。
という意見で三隅とましゃが近い考えを
持っていることが分かってからは怒濤の顔対決!
とくに年の重ね方というべきか
役所広司の顔から滲み出る深み迫力は
絶対映画館で見た方がいいと思います。
(家のテレビじゃあの迫力が伝わらない)
とにかく2人の顔の魅力を生かすカメラの力が尋常じゃない。
面会室での撮影で僕が好きなのは凶悪なんですが、
それがアップデートされた感覚を持ちました。
面会室で被告と弁護人を挟む一枚のガラス板の意味が
スクリーン上でヒシヒシと炸裂。
ガラス板を使った顔重ねは
セリフだけではなく映像で2人の立ち場を見せる
素晴らしい演出でした。
刑務所の内側と外側の違いは
人が決めた単なる境界でしかないのであるというねー
ラストは十字路に佇むましゃの姿が
また何とも言えない余韻を残してくれる。
結局真実は何だったのか?が重要なのではなく、
それぞれの持つ事実にどう向き合うかが大切なのかもな
と帰り道にぼんやり考えたりしました。

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