2017年6月3日土曜日

美しい星



<あらすじ>
予報が当たらないことで有名なお天気キャスター大杉重一郎は、
妻や2人の子どもたちとそれなりの暮らしを送っていた。
そんなある日、重一郎は空飛ぶ円盤に遭遇したことをきっかけに、
自分は地球を救うためにやって来た火星人であることを確信。
さらに息子の一雄が水星人、娘の暁子が金星人として次々と覚醒し、
それぞれの方法で世界を救うべく奔走するが……
(映画.comより)

三島由紀夫原作SFを吉田大八監督が映画化!
という宣伝で知って見てきました。
桐島、部活辞めるってよ、紙の月と
好きな作品が多い監督なので楽しみにしていました。
原作未読なので何ともいえないのですが、
相当アレンジが加えられていることが
容易に想像できるアバンギャルドっぷりに
とても驚きながらも「信じる力(思い込み)」の効力や怖さを
描いていてオモシロかったです。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

あらすじにもあるように、ある家族が宇宙人として
それぞれが覚醒していく姿を並行して描いていきます。
重一郎を演じるのはリリーフランキー。
昨年のSCOOP!での怪演も記憶に新しいですが、
本作でもそのキレは健在!
序盤はただのおじさんお天気キャスターなんですが、
物語が進むに従って宇宙人としての
自我に取り憑かれていく姿がとてもスリリング。
すげー真面目なこと言っているんだけど、
最後に取るポーズがあまりにくだらなくて最高最高!
それを天丼形式でかぶせてくるんだから抗えません。
重一郎の娘の暁子を演じるのは橋本愛。
彼女は自分を金星人と信じて疑わない。
家族の中で自分が宇宙人であることを
一番強く信じているように見える。
大学内で孤立している中で、
ふと路上で耳にしたストリートミュージシャンに心惹かれ、
彼が歌う曲の名前は金星。
彼と意気投合し金星人としての使命、
「美しい」の再定義を試みようとします。
橋本愛をスクリーンで見るのは、
寄生獣以来だと記憶していますが、
美しさへの磨きのかかり方が指数関数的で、
ちょっとどうかしてるレベルで美人でした。。。
そんな彼女に美しさの定義が間違っている!
と言われれば「ですよね〜」と思わず言いたくなりました。
とくにUFO降臨シーンは圧巻で、
高速カット割りと音楽が絶妙!
ミュージックビデオやん!と言われれば
それまでかもしれませんが、
日本の映画ではなかなか見られない演出で良かったです。
そして、重一郎の息子の一雄を演じるのは亀梨くん。
目下話題のギリギリでいつも生きていたい
グループのメンバーの1人。
入江悠監督のジョーカーゲームで見たとき以来ですが、
彼の特性を生かしたキャラ設定で良かったです。
(プラネタリウムでのイケメン批評は笑った)
メッセンジャーとしてあくせく働く中で、
あるきっかけで政治家の事務所で働くようになります。
エレベーターでの体験や佐々木蔵之介演じる秘書との
会話から自らが水星人ではないのかと信じ始める。
僕はこのシークエンスが一番好きで
とくに劇中で佐々木蔵之介が唱える自然と人間の関係性は
確かになーと頷いていました。
物語内に余白が多いので実際に彼ら家族が
本当に宇宙人だったのか?という点ははっきりしません。
僕は彼らは宇宙人であると思い込んでいるだけだと感じました。
天気予報が当たらない、大学で友達ができない、
社会でまともに働けない、
それぞれが生きていく中でコンプレックスに感じる部分が
宇宙人という人格を用意することで
社会とのバッファーにしていたように思います。
1人で勝手に信じ込むのは思想の自由だし、
それで楽しく生きていけるならOKなんですが、
人に押しつけするのはいただけないところではあります。
まさしくこの部分を象徴するのが、
唯一の地球人である妻の伊予子。
彼女は友人から薦められた「美しい水」という商品の
マルチ商法へと染まっていきます。
他人が自身を宇宙人と信じることはおかしいと思うくせに、
自分自身は特定の水を飲んだら料理が美味しくなる、
美しくなると信じてしまう矛盾。
この痛烈すぎる批評性がオモシロかったです。
マルチなんてオカルトと変わらねーぞと。
伊予子を演じるのが中嶋朋子なんですが、
彼女は養命酒のCMに出演していて、
マルチ商法にしか見えなくなるっていう…笑
あとは「美しい」という言葉への批評性。
「美しい」というのは相対的なものであり、
人間が決めた評価でしかなく、自然の中では曖昧なもの。
「美しい水」という言葉で大勢の人が巻き込まれていく様は
明らかに「美しい国」へのカウンターだと思います。
今の総理大臣に本作を見てもらったあと、
さぁ美しい国とは?と聞いてみたいものです。
全体に散らかっている感は否めないものの、
この批評性は好きなところだし、
今のままで将来良くなるとは到底思えないので、
太陽系連合の一員として未来について真剣に考えて
生きていきたい所存でございます。

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