2017年6月3日土曜日

ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス

ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス


滝口悠生作品。
寝相、死んでいないものと読んできましたが、
一番タイトルが気になっていた作品で楽しみにしていました。
バンドものかな〜と勝手に想像していたんですが、
そんな甘っちょろい想像の遥か先にリーチするのが
滝口悠生という作家だなと読み終わってから痛感。
小説をたくさん読むわけではないので
相対的にどうなのかは分かりませんが、
これだけ作家性の強い人って最近いない気がします。
お話としては、ある30過ぎの家庭をもつ男が
高校から大学入学すぐくらいの記憶を振り返る話。
何がオモロいねんと言われそうですが、
過去作に見られる時制と主観を自由に行き来する構成が
クセになるんですなぁ。
大したことない話でもフォーカスの合わせ方、
カットの切り方でビビッドになる。
(逆に死んでいないものはワンカットへのこだわりがある)
本作では主観は同じ人なんですが
時制がガンガン入れ替わりながら、
記憶の曖昧さに思いを馳せるところがオモシロかったです。
強烈な出来事は記憶しているけど、
その背景までは覚えていないとか、
「こうである」という言い切りを避けた、
ファジーな状態が続くので
トリップしているような感覚に陥る。
(最近痩せたとよく言われますがNO DRUGです)
とくに終盤の怒濤のクエッションマークの乱打は
読んでいて鳥肌が立ちました。
文体としてかっこ良過ぎる!
主人公が学生時代に原付で東北へツーリングするシーンがあり、
そこで原発にまつわる諸々を描いています。
6年経った今では多くの人が「忘れてはならない」
と唱える中で、本作ではそういったこともあったなぁ
ぐらいの温度感、つまり他の思い出と明快な区別を付けずに
並列に描いているところがフレッシュだなーと思いました。
軽く扱っている訳ではなく、
震災前には一地方都市として他の街と
何ら変わらない日常が流れていたんだよな、
ということを改めて感じると同時に、
読者に逆に「今どうなっているのか?」を考えさせる。
引き算の美学とでもいうべきか、
そこにないものを想像する、思い出す
習性を上手く活かした内容だと思います。
タイトルにもなっているジミヘンは
作品内で断片的にしか言及されないのですが、
中盤のある強烈なシーンが忘れられない。
ジミヘンのギターを燃やしている写真がありますが、
それにインスパイアされたギター炎上×切ない恋物語。
ストリートミュージシャンが叩く太鼓のエピソードも含めて、
「楽器」という小説に近いところがあります。
ラストも炎と楽器に回収されていく鮮やかさ。
それに加えて恐ろしいほどのキレで物語を閉じる。
6月末に短編集が出るらしいので、そちらが今から楽しみ!

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