2017年6月18日日曜日

光をくれた人




<あらすじ>
第1次世界大戦後のオーストラリア。
孤島ヤヌス・ロックに灯台守として赴任した帰還兵トムは、
明るく美しい妻イザベルと幸せな日々を送りはじめる。
やがてイザベルはトムの子を身ごもるが、
立て続けに流産と死産に見舞われてしまう。
そんな矢先、男性の死体と生後間もない
赤ん坊を乗せたボートが島に流れ着く。
赤ん坊に心を奪われたイザベルは
本土に報告しようとするトムを説得し、
赤ん坊にルーシーと名付けて我が子として育てはじめるが…
映画.comより)

ブルー・バレンタイン、プレイス・ビヨンド・ザ・パイン
と傑作を手掛けてきたデレク・シアンフランス監督最新作。
ポスタービジュアルを見て
甘ったるそうな恋愛映画だなーと偏見丸出しで
スルーしてたんですが、あの監督なら…
ということで遅ればせながら見ました。
期待を裏切らないと言うべきか、とても苦しい話でした。
見終わっても自分の中でなかなか消化できず、
無意味に深夜の街中をチャリで徘徊してた。。
赦すことは本当に苦しいことなんだけど、
その必要性をこれでもかと体感させられる傑作。

※ここから盛大にネタバレして書きます。

前半はあらすじにあるようにトムとイザベルの
出会い、結婚までを描いてきます。
トムは多くの屍を超えて生き延びた帰還兵。
生きることの意味を失った彼は、
孤島の灯台守として働き始めます。
本作は映像美が白眉なんですが、
文字通りの大自然を使った孤独演出が
たまらなくかっこいい。
人生に対して絶望していることを
とにかく巨大で圧倒的な自然のショットを
つるべ打ちすることで見事に表現しきってました。
言わずもがなトムを演じるマイケル・ファスベンダーの
死の香りが匂い立つような演技も抜群。
結果的に結婚するし、子どもも育てることになり、
幸せを手にするんだけど、諦念の気配が
物語内を通底して流れているんですよね。
(その気配が終盤に露骨に溢れ出てしまう訳ですが)
前半は普通の恋愛映画なんだけど、
子どもというファクターが登場するところから、
一気にドライブがかかってきます。
あらすじにもあるように、イザベルは死産、流産に
見舞われてしまうんですが、いずれのシーンも壮絶…
とくに最初の死産がめちゃくちゃキツかったです。
灯台下暗しということわざを最悪の形で具現化したようなもの。
その死産をピアノの調律で乗り越えるという
粋な演出もあるものの今度は流産。
逃げずにきちんと壮絶な様子を描いているからこそ、
ボートで流れ着いた子どもを
自分たちの子どもとして育てることも
致し方ないと思わされる訳で。
ここで主人公たちの罪を黙認する観客側は
彼らの共犯のような感覚に陥り、
後半の展開で心をこれでもかと締め付けられる。
孤島の生活でも家族3人で仲睦まじく生活する中、
街の教会へ行った際に、
トムは自分の子どもの実の母親の存在を知ることになります。
さらにここから一段ギアが上がって、
忘れかけていた自分たちが育てた子どもは
他人の子どもであるということが
再び親子に突きつけられることになります。
監督の周到さはここでも発揮され、
実の母親がいかにして自分の子どもと夫を
失ったかの過程もしっかり描いているんですよね。
夫はドイツ人で第一次大戦の敵国だったために
迫害を受けてそれに堪えきれず
舟で逃げて亡くなってしまうっていうね。。
トムが間接的に自首することがトリガーとなり、
すべてが崩壊していく終盤。
本作が見ていてとても苦しいのは、
全員間違っているし正しいということです。
善悪という基準で簡単に判断できない、
一生考えても答えが出そうにないことを
延々見せられるんだからたまりません。。
とくに子どもが可哀想で、
アイデンティティを形成し始めた段階で、
全然知らんところに放り込まれて、
知らない名前で自分のことを呼ぶ大人たち。
でも、その大人が実の親っていう。。
さらにイザベルがトムを恨んで取る行動も哀しくて。。
観客の感情をぐらんぐらん動かしてくる
畳み掛け方に脱帽でした。
冒頭に書いたように、この終わらないループを
終焉させる唯一の方法が、一度だけ赦すということ。
赦すことは本当に難しいんだけど、
一度だけ赦せば世界は広がっていく。
(赦しがなければ世界は憎しみで溢れ返る訳ですから)
僕はかなり根に持つタイプで、
赦しの気持ちになれないことが多いので、
登場人物たちのラストの寛大さに胸打たれました。
2017年のとんでもない傑作!

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