2017年6月1日木曜日

マイ・ロスト・シティー

マイ・ロスト・シティー (村上春樹翻訳ライブラリー)


ceroのアルバムタイトルにもなっている、
スコット・フィッツジェラルドのエッセイ。
本作は村上春樹翻訳ライブラリーの1つとして、
いくつかの短編小説とともに
同エッセイが収録されている作品です。
久々の海外文学でしたが、
サクサク読めてオモシロかったです。
実は村上春樹なるものを遠ざけて生きてきまして、
なんとなくの偏見で彼の作品は1冊も読んだことなくて。。
なので、これが初めての春樹体験!
冒頭に彼のフィッツジェラルド評が書いてあって、
時代背景や彼の作家性を頭にインプットして
読ませる構成ということと
翻訳の流暢さが素晴らしく読みやすかったです。
(偏見ダメだなーと読み終わって痛感)
僕が思ったのは情景描写の素晴らしさ。
たとえば「氷の宮殿」の始まりはこんな風。

絵壺を彩る金色の絵の具のように、

太陽の光が家屋の上にしたたり落ちていた。
ところどころに揺らめく影も、
降り注ぐ光の強烈さをかえって際立たせているだけだ。

このリリシズムよ…

話の中身も厭世観を強烈に感じる内容で好きなんですが、
こういった繊細な描写があいまに挟まれていて、
そのギャップも好きなところでした。
僕が一番好きだったのは「哀しみの孔雀」
突如貧乏となった一家の慣れの果てみたいな話で、
バッドエンドとハッピーエンドの2つ用意されていました。
両方とも異なる趣があり、エンディングが異なるだけで、
こんなに読了後の気持ちって変わるのか
という小説ではなかなかできない体験が楽しかったです。
言わずもがな表題作のマイ・ロスト・シティーも秀逸。
彼がここで取り上げているのはNYで、
自分と都市の距離感について語っています。
僕にとっては大阪だなぁと。
転職してからはほとんど大阪に行くこともなくなり、
年数回の帰省のみ。
梅田や心斎橋を歩いているときに
自分が全く見知らぬ都市に来たような
ストレンジャー感覚に急に陥ることもあって、
フィッツが本作で述べていることに共感したりしました。
こんなこと言うとすぐに
「東京に魂売ったんか!」と言う人はいますが、
別にそう言う話ではないのでご了承ください。

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