2017年6月20日火曜日

オルフェオ

オルフェオ

ceroの荒内 佑の連載が好きで
毎月楽しみにしているんですが、
そこで取り上げられていたので読んでみました→リンク
表紙が鬼カワイイわりに結構ヘビー級で、
音楽と生物化学をクロスさせた語り口が
恐ろしくフレッシュで楽しかったです。
主人公は1人暮らしの老人で、
音楽を生業にして来た人なんだけど
大学で化学を専攻していたこともあり、
自宅での遺伝子組み換えを趣味としている。
ある日飼っていた犬がなくなったときに
自宅に警官を呼んでしまい、
遺伝子組み換えの道具を見られたことで
テロリストの容疑者となってしまう。
そんな追われ身となった彼の現在と、
これまでの生い立ちを交互に描いていきます。
まず、本作がタイムリーなところがオモシロくて、
テロ容疑がもろに共謀罪で冤罪になるケース。
計画の段階で捕まえることができるようになるので、
自宅で生物化学キットを持っているだけでも、
捜査当局が怪しいと踏めば家宅捜索可能な訳です。
来月からそんな国になる日本。ディストピア。
(共謀罪に関しては中身、成立までの過程、
全部含めて最悪。これでいいと思っている人間は
よっぽどのバカとしかいいようがない。)
それはさておき、盆百の作家であれば、
テロ容疑者となってしまってからの逃亡劇を
メインにすえたサスペンスとして
描くと思いますが、著者のリチャード・パワーは
そんな安易なレールに乗っかることはしない。
なんなら自分という存在を見つめ直す、
一つの旅、ロードムービーのような語り口で
物語を進めていくところがフレッシュ!
同時に音楽家としての人生を振り返り、
2つの物語が終盤に向けてリンクしていくところが
とてもオモシロかったです。
クラシックを中心とした膨大な量の音楽の引用があり、
しかも、その音楽の背景にある音楽理論まで
リーチしているので音楽好きで詳しい人だと、
さらに楽しめるのかなと思います。
先に紹介した連載でも言及されていた、
スティーブ・ライヒの「プロヴァーブ」のシーンは
めちゃくちゃカッコ良かったです。
カフェでかかる音楽から、
ここまで世界広げることができるだなんて!
究極の音楽とは何か?を求道する音楽家としての人生は、
残酷で切ないところがありました。
そのために安定な就職口としての化学専攻を捨て、
さらに妻子まで捨てた人生は
果たして幸せだったのか?と考えさせられる。
娘との再会からのエンディングは
ページを捲る手が止まりませんでした。
また、2つの物語の場面転換の合間合間に
短い文章が配置されていて、
終盤にそれが何なのか分かるのですが、
知ったあとにもう一度読みたくなる作りになっています。
青年期と晩年を交互に描くことで、
青年期独特の強がり、背伸びしたい気持ちが
色々こじらせてしまっていることを明快にしているし、
晩年の悟りの境地が生物と音楽という、
驚天動地の結論に至っているところが超絶過ぎた。
リチャード・パワーは他の作品もオモシロそうなので、
読んでみたいと思います。だいぶ重たそうだけど。

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