2015年4月23日木曜日

海にかかる霧



ポン・ジュノが製作を務め、殺人の追憶の脚本を担当した
シム・ソンボの監督デビュー作品。
名作スノーピアサーでポン・ジュノを初体験し、
その後DVDで色々見た結果、大好きな監督の1人です。
そして本作も哀しき獣やチェイサーおよび
ポンジュノ作品に連なる不穏でやり切れない気持ちになる、
僕の好きなタイプの韓国映画でした。
綺麗事は一切ないし、それこそ中村文則氏が小説で
描いている世界観に近くて、
どういった形で悪が形成されていくかを
見せつけられるような映画体験でした。
このタイプの作品がコンスタントに生まれる
韓国映画の土壌はやはり豊かだな〜と思います。

漁船が舞台となっていて、テチャン号事件という
実在の事件をベースにしたバイオレンスサスペンス。
舞台は1998年。漁船の老朽化が進み、
それを売らなければならないぐらい漁でも儲からない。
そこで船長は中国からの朝鮮族の密入国を手伝うことに。
裏稼業にうかつに手を出してしまったことにより…という話。
前半では漁船の乗組員が陽気で平凡な漁師であることを
何気ない描写の積み重ねで描いていきます。
冒頭、漁のシーンから始まるんですが、
主人公のドンシクが網に足をからませてしまい、
仲間全員で救出するくらい結束している。
この前半のフリが後半に待つ地獄を
より際立たせることになります。
いざ密航の手伝いや〜ということで、
密航船から漁船へと人を引き取っていきます。
漁と同じで「取って帰ってくる」だけでいいかと思いきや、
数々のトラブルが待ち受けていて、
乗組員たちも徐々に狂ってくる。
密航者の存在はバレたらダメだから、
知らない船や警備隊が来たら船底の魚倉に格納するんですが、
それが悲劇の始まりで、魚倉内でフロンガスが漏れて、
1人残らず死んでしまう。
この死体映像と死体処理映像がハードで、
まるで魚を処理するかのごとくバラバラにしていく。
ここがターニングポイントで乗組員たちの
倫理観が崩壊し善悪の区別があいまいになっていく。
まるで沈んでいく船のように綻びが出てきて、
それを埋めるために行う悪の所業の無限ループで、
悪がどんどん大きくなってきます。
何が辛いかって自分が同じ立場に置かれたとき、
この悪に染まらないでいられるのか?
と見ているあいだ常に問いかけられている気がするからです。
限定空間の中でヒエラルキーが存在するという点では、
名作スノピアサーと類似していますが、
リアリティーラインが桁違いなのでより生々しい。。
そんな中で今回もキム・ヨンシクは最高最高!
今回は鬼畜船長役なんですが、
中盤で逆らう密航者を容赦なく、
ボコボコにするシーンでサムアップ!
基本的に悪として描かれているけれど、
そもそも彼が密航を手伝うことにしたのは
船を手放したくない気持ちゆえの行動だったことを
思いながら見るラストはグッとくるものがありました。
あとボイラー室での殺人とSEXが、
愛と悪の対比シーンとして好きでした。
信じた愛に裏切られても生きていかねばならない、
この不条理さも韓国映画らしくてよかったです。
確実にアベレージ以上を叩き出す韓国映画。

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