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本業2024/水道橋博士 |
尾崎世界観の祐介を読んだ際、水道橋博士のメルマガを思い出し、そういえば博士は今どうなっているのだろうかと思って検索してみると、本著が新刊でリリースされていることを知って読んだ。私が本を読むようになったのは、いろんな要因がある中でも、博士の影響が大きいことに改めて気付かされた。
もともと『本業』というタレント本の書評集があり、それをベースに他の書評原稿、対談などを新たに追加したものが本著である。600ページ超という、とんでもない分量になっているが、しばらくぶりに浴びる博士の軽妙ながら熱量のこもった文体に煽られまくって、三日で一気読みしたのであった。
『本業』が2008年リリースであり、自分がちょうどテレビをたくさん見ていた子どもの頃のタレント本ばかりで懐かしい気持ちになった。そして、本のレビューを書いているからこそわかる著者のレビューの圧倒的に高いレベルを肌身で感じた。単純な本のレビューというわけではなく、本人が現場で直接見聞きした話を織り交ぜつつ、わかる人にはわかる大量のコードがこれでもかと詰め込まれており、読み応えは抜群だ。本の中身に触れつつ、核心は避けて読者に期待を抱かせるアウトボクシングかと思いきや、懐に入り込み激しいインファイトを繰り広げ、読者の心の深いところに入り込んでくる変幻自在のスタイルでレビューされる本の数々は門外漢でも思わず読みたくなるものばかりだった。最多引用であろう『ルポライター事始』は必ず読みたいし、純粋なレビューという観点でみれば、週刊誌二大巨星について、新たな星座を見出した本著屈指のレビュー『2016年の週刊文春』と『鬼才 伝説の編集人 齋藤十一』も読みたい。
タレント本が出版されるのは、テレビやネットで切り取られることで、本意ではない自分のイメージが広がっていくことに対して、本という高密度な活字媒体で自らの思いを強くファンに向けて発信することが可能だからだ。SNSおよび付随するサブスクリプションが、今後その機能を代替していく可能性は高いが、物体として残る本はタレント、ファンにとってなくてはならないフォーマットだろう。そして、本人の思いが実直に吐露されていることで、時が経っても味わい深さが残る。本著においても、当時のレビューのあとに2024年時点の各タレントの現状に関する説明があり、あまりの諸行無常っぷりに遠い目になることもしばしばあった。特に今、過去のタレントの行いが大きな社会問題になっている最中に読んだこともあり、過去と現在を比較する意味について考えさせられること山の如しだった。他にも博士がビートたけしの楽屋を訪ねた際に映画を7倍速で見ている場面に遭遇、その後、雑誌でその映画をレビューしていたというエピソードも「倍速視聴」の意味が当時と2024年では全く異なるからこそ、ビートたけしの先見性を垣間見ることができる。
他人の本に関する書評にも関わらず、読んでいると「博士像」が浮き上がってくる点が興味深い。人生に対するスタンス、本から引用される名言の数々(「出会いに照れるな」など)は、十年前にメルマガを読んでいた当時から時が流れ、自分が立派な中年となった今、さらに刺さるのであった。また、博士の言動について、外野から見れば理解できないケースが往々にあるかもしれないが、そこには博士なりの筋があると同時に、ビートたけしの弟子としての矜持を全うしていることがよくわかった。
世の良識ある「保険だらけの現実」が「命懸けの虚構」を回避し、「安全」な場所へ居続けようとする、その「退屈さ」に俺は耐えられないからであろう。
書評以外の書き仕事のまとめとして『文業2024』としてまとめられるそうなので、そちらも楽しみに待ちたい。
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