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事件記者、保育士になる/ 緒方健二 |
本屋で見かけてタイトルに惹かれて読んだ。子どもの送り迎えを担当しているので、必然的に保育園との関係が深くなる中で、保育士の方々の仕事がいかに大変か、肌身で感じる今日この頃。そんな保育士になる過程を知ることができて興味深かった。
タイトルどおり事件記者が保育士になるために短大に入学、卒業するまでを描いたスクールエッセイ。60歳を超えて、新聞社を辞めて保育の資格を得るために短大に入るバイタリティに驚く。周囲は十代の女性ばかりの中で座学、実習に奮闘する姿は、新しいことに億劫になりがちな中年マインドが大いに刺激された。大学の先生と口論したり、クラスメイトと支え合う姿はまさに第二の青春そのもので眩しく映った。
児童虐待などを中心に子どものいたたまれないニュースが目に入ることが増えているが、著者は記者なので、そういった情報を山ほど見てきている。そんな状況で、元事件記者から見た今の子どもが生きる環境に対する目線は新鮮だ。「実態を知らずしては何もできない」ということで、保育の世界にいきなり飛び込む姿勢は、記者ならではの現場主義を感じた。
文体、口調がかなり特徴的で、表紙絵のように菅原文太をイメージしたような「昭和の男」が憑依しているよう。前職が新聞記者とのことなので、淡々と書かれた記録のようなものが正直読みたかったところではある。本人はそのつもりはないかもしれないが、一種のSNS構文とでも言えばいいのか「若い人たちに混じって勉強するおじさん」を演じているように映った。とはいえ、この文体だからこそ惹きつけることができる読者はたくさんいるにちがいない。また、クラスメイトに接する態度について、男女で応対を変えている点も気になった。女性に対して下手に出るのは理解できるが、男性に対してオラつく必要はあるのだろうか。「60歳過ぎの元事件記者」と「保育士を目指す十代学生」いう世代間ギャップでオモシロくしたい気持ちは理解できるが、そこで傾斜をつけなくても、さまざまなギャップが他にもたくさんあるのだから、ことさら強調する必要はないように思う。
卒業後、現時点では著者は保育園で実際に勤務しているわけではないようだ。保育園で得た情報はプライバシー保護の観点であまり出せないのはわかるが、続編があるとすれば、現場のリアルな様子を、それこそ新聞さながらのレポートとして読んでみたい。
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