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パーティーが終わって、中年が始まる/pha |
2024年リリースの書籍でタイトル選手権をすれば、なぜ働いていると本が読めなくなるのかと並ぶ優勝候補になるであろう、そのタイトルに惹かれて読んだ。著者より一世代下ではあるが、中年の入口に立っている認識を最近持つようになったので、ある種の予習として興味深く読んだ。
著者が自分の人生を振り返りながら、中年を迎えた現状について考察している。「インターネットの人」という荒い解像度で捉えていた著者の背景を知りつつ、それを踏まえた中年期に対する考察が興味深かった。長いあいだ、シェアハウスで常に他人がいる状況で暮らしてきた著者が「中年の一人暮らし」を営む中で、まるで世の真理を発見していくような、哲学的とも言える人生に対する視点の数々。ブログが出自ゆえの柔らかい文体から繰り出される、達観さえ感じる文章は、著者が歩んできたイレギュラーな人生とギャップがあり新鮮だった。また、時代の移り変わり、とくにテクノロジーによるイノベーションが実社会においてどのように落とし込まれていくか、生き証人として書かれている要素が強く、何十年後かに読まれる際には資料価値も高くなりそうだ。
私が会社員として生活しながら、このブログを書いたり、ポッドキャストを運営したり、「それがなぜ続けられるのか?」と人に聞かれることがある。特別人気があるわけでもないから、自分自身もどうしてなのかわからないし、深くは考えてこなかったのだが、本著を読むと自分自身の自己実現、承認欲求に対する理解が深まった。つまり「たくさんの人に知ってもらいたい」「お金を稼ぎたい」という欲望がゼロというわけではないが、適量の承認、自分が好きな人やコミュニティに受け入れてもらいたいという欲望が強いということである。量よりも質といえばいいのか、一人の読者、聴者でも同じ志の人と一緒に楽しくやっていきたい、とでもいえばいいのか。会社員としてのパーティーの終わり方が少しずつ見えてくる中で、それとは別のパーティーを細々とでも続けることで人生に意味を見出している節は大いにある。そういう意味で、直接の知り合いでもない方がブログを読んでくれたり、ポッドキャストを聴いてくれたり、ZINEを買ってくれたりしてくれるのは、本当にありがたい話だなと読んで気づかされた。自己分析要素が強いので、このように自分の人生について改めて考えさせてくれるいい機会になった。
鴨長明『方丈記』の「ゆく河のながれは絶えずして、しかももとの水にあらず」が引かれているように、本著に通底するムードは諸行無常だ。著者が猫を飼っていることが明らかになるのだが、その愛猫生活から一転、現在は亡くなってしまっている事実があきらかになる。思わず「That’s life」と声に出してしまいそうな、その落差。過ぎた時間は戻ることなく、ただそこに人生があるだけという、これまた達観した視点に、自分の人生の舵をどのように取ればいいのか考えさせられるのであった。次は、蟹ブックスから出てる読書日記を読みたい。
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