OMSBのワンマンライブを見てきた。SIMI LABの頃からファンで、ずっと聞いてきたラッパーであるにも関わらず、ワンマンに一度も行ったことないことに気づいて、すぐにチケットを買った。過去に客演で彼がラップする姿を何度か見てきたわけだが、それとは比較しようがない圧倒的なライブのスキル、パワーに圧倒された。高いバイブスで2時間弱スピットしっぱなし、まさにラップの黒帯ホルダーであることを証明していた。
ライブが始まった、その一声目で「声でか!」と思わず言いたくなるほどにバイブスは満タン。WWWXで何度もライブを見ているが、この日の低音量は本当にハンパじゃなくて、Tシャツがビリビリ震えるほど。最近のインタビューで発言していたヒップホップの定義を有言実行していて信頼できる、まさに「最後のB-BOY」だと実感した。その爆音に一切負けることがないOMSBのボーカリゼーションが素晴らしかった。ストリーミングの影響で同じ曲を繰り返し聞くことが少なくなった今、細かいリリックまで覚えていないことが多いわけだが、鳴り響く重低音の中でリリックがしっかりと聞き取れることに驚いた。その観点で一番印象的だったのは「喜哀」ライブで聞くと、全く異なる感触だった。特に以下のラインが突然グサっときて思わずウルッとした。
みんな大好き お弁当かトレンド
無能がゴネる コイツ数字取れんの?
地味、派手、古い新しいじゃねえんだよ
お前の知らなかったグレーゾーンを開けんの
今では、ボーカル入りの曲でラップするラッパーの方がシーンにおいて多数派となる中、OMSBはストイックにガイドなしのインストオンリーで叩きつけるようにラップしていた。歯切れよくラップしているときに「スピット」と表現するが、今日の彼のパフォーマンスを見ると、安易に他のラッパーのラップに対して「スピット」と使えなくなる。それほど「スピット」という言葉でしか表現できない、これぞラップとしてのショウを繰り広げていた。
そんなことを考えている合間に、この日のハイライトの一つである「黒帯」が始まった。ライブのタイトルにもなっているこの曲にOMSBのライブの醍醐味がすべて詰まっていると言っても過言ではない。例えば、ストリーミングで今この曲を聴いても、その輪郭しか掴めないだろう。リリースから十年が経ち、楽曲が異形の形に進化しており、現場で見なければ、この曲の持つパワーは感じ取ることができない類のものだ。三年連続でワンマンを続ける中で洗練されてきたことが察せられる。柔道の黒帯よろしくにビートとラップが組んず解れつしまくる様は、「ヒップホップ」としか呼びようのない瞬間の連続だった。この日、バックDJを務めた盟友Hi'Specとのコンビネーションも抜群で、音の抜き差しだけではなく、まるでスキャットのようなOMSBの声にならないようなアドリブに呼応するターンテーブリズムが圧巻。全ヒップホップファンが見届けるべきと言い切れる曲だ。
最近の客演曲を聞くことができたこともワンマンならでは。具体的には、Kzyboostとの「O/G」、Young Yujiroとの「No way(REMIX)」この二曲はOMSBのヒップホップに対する高い理解度ゆえに、相手の良さを最大限に引き出す受け身の上手さが発揮されており、それを生で聞ける機会は貴重だった。客演ではないが、「Memento Mori Again」をNORIKIYOの「Do My Thing」のビートに乗せて披露した場面も最高だった。「いいか Young gun」というライン繋ぎで、同じローカルをレペゼンするOGに向けたリスペクトの表現として、これほど粋な出所祝いはない。また二人で曲を作ってほしいと思わずにはいられなかった。
ビートジャックは「Blood」や「Lastbboyomsb」 でも行われており、これらもライブだからこそ聞ける醍醐味。ビートジャックしながら「ヒップホップの話をしようぜ!」で大合唱できる空間なんて、ヒップホップがこれだけ流行っている今でも、OMSBのライブしかないだろう。「Blood」は2Pacの「Do for love」だとわかったのですが、「Lastbboyomsb」のビートがわからずモヤっているので、識者の方はご教示ください。
一度暗転する場面があり、そこからJJJ追悼パートへ。「ActNBaby」、「Bro」、「心」といったJJJとの共演曲を彼のバースも含めて披露していた。特に「心」はJJJのガヤの音質が良いためか、ステージ袖で声出しているのかと思うほど、むき出しの生の声が会場に鳴り響いており、JJJがいないことの寂しさが浮き彫りになっていた。(「心」はライブ音源をスペシャ、STUTSにお願いして用意してもらったようですね…納得!)アンコールでも、JJJ逝去がOMSBにとって、いかに大きな出来事だったか話していたし、ライブの最後の曲はJJJに向けた書き下ろし曲であったことからも彼に対する強い想いが伝わってきた。
OMSBの魅力として、ラウドな面とセンシティブな面の相反する魅力が同居している点が挙げられるだろう。それはヒップホップが一人称の音楽であり、人間性そのものが滲み出る音楽だからこそ表現できるものだ。ラウドなヒップホップを爆音で聞いて自分をエンパワーしたいときもあるし、死をモチーフにしたような内省的で繊細なリリックから自問自答することもある。この両方をシームレスに行き来できるラッパーはシーンにもそう多くない中で、OMSBとJJJは上記の点で同じベクトルにいたラッパーと言える。ゆえにJJJの不在がOMSBに与えた影響は察するに余りある。そんな中で、最後に「RIPじゃねーんだ、忘れんな。曲聞け」と言っていたことに溜飲を下げた。最近Twitterをまた見るようになって「JJJが亡くなったことをアテンション稼ぎに使ってない?」と感じる瞬間が時折ある。当然、死との距離感は人によって異なり、同じように辛い思いを抱えた人が連帯できるのは理解できるのだが、そこに承認欲求が見え隠れすると薄ら寒い気持ちになる。これは完全に私見であり、OMSB本人がどこまでを意図していたかはわからないが、一つ確かなことは私たちはJJJというラッパーを忘れてはならないということだ。
自分にとってこの日のハイライトは「Scream」だった。この曲は対人関係で辛いときに何度も聞いた曲で、個人的にOMSBのキャリアで一番好きな曲だ。2ndアルバムに収録されている中で特別目立つ曲ではないのだが、人の多面性を歌った曲でここまでの完成度を持った曲に未だ出会ったことがない。まさか生で聞けるだなんて感無量だった。
そして、近年リリースされたOMSBの楽曲の中で最も好きな「大衆」という曲を遂に聞くことができた。メロウなトーンで、BPMも比較的スロウで、パーソナルかつ機微のあるリリックにも関わらず、なぜこれだけ気持ちが昂ぶり、盛り上がるのか?と思うほど会場に一体感が生まれていた。それはやはりOMSBが表現している景色に多くの観客が投影できる普遍性があるからなのだろう。このバースは子どもがいる今、一層沁みる。
見ないフリしていた普通や常識の定義
それでも誰にも変え難い愛しのLadyからなんと愛しのBabyが産声をあげた
さあお前も今日から大衆だ
さらにビーフが話題の今はこのラインだろう。
誰かが誰かをディスほらねこういうとこ
よそ見ばかりしてるから見失う
こうやって時代や環境の変化、聞くタイミングで、リリックの感じ方が変わっていくこともヒップホップの面白さの一つだなと感じた。ヒップホップが好きであれば、どうしても件のビーフに気を取られてしまうわけだが、そこで何かを見失っていることに改めて気付かされた。
アンコールは唯一無二なラップアンセム「Think good」からスタート。客演なしでほとんど休憩することなく、あれだけラップしてきたのに、まだその出力なのかとラップフィジカルにただただ脱帽。そこからEテレの番組の主題歌である「Toi」これもOMSBだからこそ書けるリリックで、実際に番組を見ると、この曲に込めたOMSBの思いが感じ取れるので番組もおすすめだ。
ヒップホップのライブをたくさん見てきたが、この日のOMSBは日本で一、二を争うレベルのクオリティだった。OMSBというラッパーが、こんなにもかっこよく、信頼できる存在として日本にいる。その事実を改めて声を大にして言いたくなる夜だった。