5lackが彼の地元である板橋でワンマンライブを公演を行うと知り行ってきた。チケット代が7500円で、ホールとはいえ少し割高…と購入時は思っていたのだが、実際の公演は余裕でお釣りがくる、安すぎるとすら思わされる充実したショーケースだった。日本語ラップにおける「孤高の天才」というイメージがあるが、この日は「天才には天才が引き寄せられる」言い換えるなら、羊(G.O.A.T.)が群れるように集まった豪華な布陣に魅了されたライブだった。
「五つノ綴り」のイントロが流れてライブがスタート。ステージ横から5lackと思しきマスクマンが登場して歌い始める。その後、暗転し、今度はステージ上に聖歌隊が円陣を組み、同じく「五つノ綴り」をゴスペルとして歌い上げる。それが終わると、バックDJを務めるWatter、ラッパーのGapperたちが板橋を徘徊するコント映像がスクリーンに流れて「集合場所は高架下!」の合図で本編が始まった。5lackは、サングラスをかけ、シャツインのネクタイ姿で登場し、最新EP『Turnover』から「高架下」を披露。さらにステージ脇にはドラマーのmabanuaが控え、半生バンドの演奏と5lackのラップが融合、その相性はバッチリだった。このように冒頭からギミックが山盛りでワンマンライブならではの味わいがあった。
「563」を含め数曲、半生バンドで披露したのち、続く「Change up」では、盟友ISSUGIが早々に登場。二人のコンビネーションの特別さを再確認した。そして「Change up」の2000年代バイブスを引き継ぎながら「近未来200X」へ。往年のファレルのスタイルを思いっきりオマージュしたビートで大好きな曲だ。ここではGAPPERが登場、さらに曲終盤の5lackが歌い上げるパートでは、風を使った演出があり、そのくだらなさにいい意味で肩の力が抜けているように感じられた。ギターつながりでSILENT POETSとの「東京」も披露。もともと東京五輪向けの曲だったが、地元をレペゼンするライブの定番曲となっていて時間の経過を感じた。
そこから「俺の長いキャリアはBudamunkなしには語れない」というMCと共にBudamunkプロデュース曲のパートがスタート。「Buttefly」「Life a」など、Budamunkの独特のグルーヴのビートが、ホールに鳴り響く様は圧巻だった。最後には本人も登場し、5lackと共にステージを一旦退場。
インターバルはGAPPERが担当。「HOTEL@GAPARINA」を披露したのち、お笑い芸人の営業さながら場を繋ぎ始めて場内はざわついていた。Good old daysな話として、彼らが若手の頃、近くのリハスタで練習していたこと、このホールの前でたむろしてたことなど、地元ならではの空気を精一杯伝えてくれていた。最後に披露した「Assquake」では、客演のDaichi Yamamotoがまさかの登場で、さらに場内騒然。Daichi Yamamotoのラップを初めて見たのだが、ラップのうまさから身のこなし、何から何まで演者としてかっこよすぎたのでワンマンライブに行きたくなった。
後半は、トレードマークの読売ジャイアンツのベースボールキャップをかぶったB-BOYスタイルで再登場。後半冒頭で、いろんな曲のメドレーがかかったのだけど、そこで『情』に収録されていた「朝の4時帰宅」がかかってビビった。そんな前振りののち、ステージ上にLEDによる星、天の川のようなものまで浮かび上がり披露されたのは「Gaia」そして小袋成彬が登場。彼の声が会場の空気を一変させ、視覚的にも聴覚的にも楽曲の壮大さが表現されていた。これを二人揃って聞ける機会なんてそうないだろうから、この辺で入場料金が高いと一度でも思ったことを本当に反省した。
この日のハイライトは「But Love」「HPN」の流れだった。「But Love」では、オリジナルのビートではなく、ピアノソロの上で5lackがスピットしていく。このアルバムを一番聞いていたのは東大日本大震災直後の頃で、あの頃のなんともいえない閉塞感、自分の人生のうまくいかなさなどを思い起こさせる、彼のラップの生々しさに思わず涙してしまった。その後、暗転された中、ステージにスタンドマイクがセットされて、JJJとの「HPN」が流れ始め、暗転したままJJJのバースが流れ続ける。ここで浮かび上がるのは、JJJの圧倒的な不在である。POP YOURS、the light tourなど、JJJがまるでいるかのように振る舞うことで、彼のこれまでのキャリアに敬意を表したわけだが、5lackはそれらとは全く別のアプローチを取り、彼なりに喪に服したのだった。そもそも「HPN」は人生で起こる想定外の事態を歌った曲であり、リリース時はFebbの急逝を憂いたものだった。実際、2018年のリキッドルームの5lackのワンマンライブではJJJ、そしてKid fresinoも登場して、ライブ中にFebbに思いを寄せていた。それから7年後の現在、JJJの不在を可視化され、死の現実を目の前に提示されたようで涙が止まらなくなってしまった。その後、用意されたスタンドマイクを使って歌い上げるのは「進針」この流れで聞くと、意味合いが深まって聞こえる曲で素晴らしかった。
往年の名曲「NEXT」「Girl if you」「Hot cake」「適当」も披露されていた。この辺りは無条件でブチ上がらざるを得ない青春の名曲の数々であり、本人も言っていたが、リリースから十数年経つのに古びていないし、若い子たちにも聞かれていることが会場の合唱からも伝わってきた。やはりサンプリングビートだからこそのエバーグリーンな魅力があるのだろう。
「キャリアが長くなってきたけど、まだまだ欲望はあるよ、その大きさは5XLくらいかな?」のMCとともに「5XL」が始まり、まさかのLEX降臨!先ほどのDaichi Yamamoto然り、初めてライブで見たのだが、カリスマがステージからビシバシ発せられており、日本語ラップのライブにおいて、この手のカリスマを感じることがあるのかと心底驚いた。そして、肝心のラップも独特のボーカリゼーションが「マジでスター!」としかいいようがないい、いい意味での自由さに溢れていて、若者たちが熱狂する理由がよく理解できた。LEXがパフォーマンスのあいだ、ずっと手をポケットに入れていて、何なのかなと思ったら、5LACKのバースに ”考えてるふりしてるだけ 手を入れるポケット” オマージュだったことに気づく。いいやつすぎる。そして、この曲の会場での合唱率が異様に高く、お客さんが若返りしていることにも気付かされた。
続く、Kojoeとの「Feelin29」では、ベテランならではのスタイルウォーズを見せつけていた。Kojoeのマイクが最初入ってなくて、一瞬ざわっとしたのだが、歌っている本人が全く動じてなくて、ミスをミスに見せないプロの業を見た。
この日はアフターパーティーとして「Weeken’」が予定されており、ラインアップの紹介を経たのちに「Weeken’」をmabanuaを再度召喚して半生バンドで。この曲のアートワークのとおりビートの持つお祭り的なノリが生のドラムでさらに加速していて、会場がぐわんぐわん揺れていた。最後に白い円盤シリーズ「39 hour」で一旦締め。
そのあと、アンコールでは冒頭に登場したマスク姿で5LACKが登場…と思いきや、それはPUNPEEだったというまさかの展開から兄弟ソング「Wonder Wall」へ。この日はいろんな客演があったわけだが、他のアーティストとは異なる二人の信頼感がステージングから伝わってきた。そして、ここにGAPPERが加わって、まさかのPSG!「M.O.S.I」「神様」はメドレーで、PUNPEEのアルバム収録「Stray Bullets」名曲「愛してます」がフルバージョンで披露。三人でラップする姿を見ていて、PSGがそのまま活動していたら、どうなっていたのだろう?と一瞬考えたのだが、PUNPEEと5lackという天才兄弟が別ベクトルで活動した結果、日本語ラップの未来の裾野が大きくなった世界線に我々は生きていることに一周回って感謝した。大ラスは再度白い円盤シリーズより「こうして夜空を眺めて」で大団円。
直近のEPでは、キャリア初期の「適当」「ミュージックのみ」といったアプローチよりも、サッカーMCものが意外に多い。それは『5XL』リリース時のインタビューからも明らかなとおり、日本のヒップホップ市場が大きくなっていく中で、ラップ、歌、ビートといった「スキル」のコンペティションだったはずのヒップホップが歪められていることに苦い思いをしてるからだろう。そんな状況で、この日のライブはスキルフルで、ちゃんとライブ用にボーカルなしのビートの上で自らのラップスキルを誇示し、彼がいかにかっこいいラッパーなのかを明確に示すものであったし、ショウケースとしても素晴らしかった。(非常に細かい話だが、ライブ中にほとんど水を飲まないことにも日々の鍛錬を垣間見た。)
1987年生まれとはいえ早咲きの天才は、すでにベテランの領域に差し掛かっており、今後どんな音楽を紡ぎ出すのか、これからも見守っていきたい。とか書いていたら、日付変わって、ニューアルバム『花里舞』がリリース!ライブを新譜のプロモーションのチャンスとしない天邪鬼っぷりこそが、5lackというラッパーの魅力を最も表しているかもしれない。
そして、何気なくアルバムのプロデューサー陣を見ていたら、見慣れないKid Hazelという名前がありググってみると、21 savageも手がけるUSトッププロデューサーだった。こんなサプライズを含め、ライブのタイトルどおり「そのさき」の景色を見せてくれそうなアルバムなので、ライブの余韻に浸りながら楽しみたい。
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