2025年12月1日月曜日

美玉通信 第2号 世界の終わりの美玉書店

 先日の文学フリマでゲットした美玉通信 第二号。『美玉ラジオ』というポッドキャスト番組によるZINEである。ポッドキャストではSFを中心に読んだ本が紹介されており、毎月欠かさず聞いている番組の一つだ。ウェブ上にあるのは、最新の三回分のみのアーカイブなので多くは聞き返せないものの、今回のZINEで過去回が文字で読めてありがたかったし、ZINEというフォーマットならではの切り口で「世界の終わり」が提示されていて興味深かった。

 今回は「世界の終わりの美玉書店」というテーマで、世界の終わり系SFについて、対話、エッセイ、小説といったさまざまなスタイルで「世界の終わり」に焦点を当てている。冒頭『PMSのためのガイドブック』から始まるわけだが、PMS=世界の終わり、という見立てが興味深い。私は男性で、どこまでいってもPMSそのものを体験することは叶わないわけだが「世界の終わりかと思うほどの辛さ」であることを男性が少しでも理解する端緒になりうる。どちらかといえば男性的世界観の強いSFにおいて、こういった女性特有の視点によって選書されている点が興味深かった。

 対話パートでは、ポッドキャストで「世界の終わり」について話された過去回が収録されている。私も同じく文字起こしでZINEを制作しているが、文字と音声の違いを改めて感じた。音声はいい意味でも悪い意味でも聞き流せるが、文字だと繰り返し読めるし、目で行ったり来たりできるので情報の粒度が一気に変わる。特にコンテンツの話だと、音声の中で登場してもフォローできていないことがよくあるが、文字はそこもきっちりトレースできる。今回だと『地上最後の刑事』シリーズがとてもオモシロそう。自分のアンテナには引っかかってこないSFの話を柔和な語り口で紹介してくれているので読んでみようという気になりやすい。これも番組の特徴と言える。

 「世界の終わり」というワードだけで、これだけいろんな小説が紹介されていて驚くし、読み終えたあと、ストーリー展開などをすぐに忘却してしまうタイプの人間なので、お二人が話の流れに沿って、それぞれの考えを語っていることに小説への愛を感じたのだった。

 読書系のポッドキャストは色々チェックしているのだが、密度の高いもの、つまり読んでいる前提で話が進んでいくものが多い。『美玉ラジオ』では二人とも読んでいるケースも当然あるが、本の嗜好はバラバラなので、片方が読んでいないことも往々にしてある。読んでいる前提で一定のゴールに向かうのではなく、あくまで会話の流れで本の話をしている点が番組の好きなポイント。終盤に過去回のアーカイブとして掲載されている『わからないを考える』は、まさにこのポッドキャスト番組の魅力そのものが結果として話されているエピソードであり、ZINEに収録されていることも納得だし、折に触れて読み返したい内容だった。

 個人的にもっとも聞き返したかった春暮康一を特集したエピソードが載っていてアガった。『法治の獣』を読んだあとは停滞しているのだが、二人の語る春暮康一の魅力を読むと、読みたい気持ちが再び高まってきたので、その気持ちを大切に次は『オーラリーメーカー』を読みたい。(今年、二回目の決意)

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