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LATIN AMERICA DIY CATALOG/筒井伸 |
blackbird booksのインスタで知って読んだ。メキシコで行われている地域通貨による脱資本主義の試みが丁寧に解説されていて興味深かった。
著者がコスタリカに訪問するついでに、メキシコへ寄った際、地域通貨TÚMINの存在を知り、メキシコを横断しながら、ジャーナリストのようにTÚMINがどういう仕組みで運用されているのか迫っていく様子が描かれている。ときに退屈になりがちな経済の話ではあるが、TÚMINの開発者や利用者の具体的なエピソードと、著者による味わい深い絵の数々で退屈することはなく、ページをめくるごとに、DIY経済の手触りが伝わってくるような感覚があった。
もともとこの本を手に取ったのは、「地域通貨」という言葉に惹かれたからだ。というのも、現在私が住んでいる、さいたま市でも地域通貨の取り組みが行われている。しかし、こちらは大規模な税金を投入して作られた電子通貨でありながら、大手チェーン店でも使えるという仕組みのため、結果的に地域内に還元される構造にはなっていない。トップダウンで進める悪例そのものだ。
それに対して、TÚMINは地域住民の手によって立ち上げられたボトムアップ型の地域通貨である。その役割は、通貨の代替というよりも、通貨を通じたコミュニティの構築という側面が強い。つまり、TÚMINを持っているということは、ある種の理念に賛同していることの意思表明であり、そこで連帯感を抱くことができる。
また、TÚMINは通貨ではあるものの、あくまで物々交換のための「道具」として位置付けられており、それによってメキシコ銀行からの追及も逃れている。このあたりはメキシコという国の大らかさを感じる。日本では、ルールや「正しさ」に対して過敏になりがちで、なにかとお上の顔色をうかがう傾向がある。TÚMINのような緩やかながら上手く運用されている様子は新鮮に映った。
TÚMINの魅力のひとつは、使える人の条件として「プロシューマー(生産消費者)」であることが求められる点にある。ただ受け取るだけでなく、自分自身も何かを提供することによって、地域内で贈与の循環が生まれる。この構造が、TÚMINを通じて形成されるコミュニティに連帯感と持続性をもたらしている。制度の運用においてもガチガチのルールは設けられておらず、あえてフレキシブルにすることで、より多くの人が関われる余地を残しているようだ。そんなTÚMINに対する著者の考察は「地域通貨」という大きなプロジェクトでなくとも、多くの人にとって今必要な思考かもしれない。
新しい経済を作ろう!と言うと難しい話に聞こえがちだが、正しさだけではなく、アイデアや楽しさやユーモア、そしてアマチュアであることを肯定してザクザク色々な人を巻き込んだり、巻き込まれたり、離脱したり、また戻ったり、肩肘はらずにそれぞれが自分の感覚に愚直に動ける空気が伝わってきた。そして、TÚMINの仕組みは、人間が目的に向かって一直線にずっと同じ熱量で動くことはできないという不完全さを最初から許容しているような仕組みだと改めて思った。
自由貿易の名のもとに進められたグローバル資本主義は、農村部の貧困や搾取を助長してきた。TÚMINは、そうした流れに対する草の根からのカウンターであり、農村が自らの権利と誇りを取り戻すための手段でもある。「安く買えること」が当たり前になった今、その裏にいる生産者の声や生活を見失いがちだ。メキシコの地域通貨が、資本主義、経済の本質に疑問を投げかけ、新たな可能性に気づかさせてくれた。
遠い国の、遠い町で起きている小さな実践の中に、今この瞬間の私たちにも繋がる大切なヒントが詰まっている。だから、読書はオモシロい。
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