ブルックリンの八月/スティーブン・キング |
最近毎月楽しみにしているポッドキャスト番組『美玉ラジオ』で紹介されていたので読んだ。スティーブン・キングという大作家を前にすると、一体何から読めばいいのかと足踏みしてしまうが、今回のように構えることなく、自分の興味のまま読めばいいなと思った。ただ、スティーブン・キングの初手としては絶対これじゃないなと思いつつ、メタ構造をふんだんに含んだ小説と巨匠の筆致を感じられるエッセイ、いずれもオモシロかった。
本著は短編小説が四つ、エッセイ一つ、詩が一つで構成された特殊な一冊である。後半に載っている野球に関するエッセイを目的に読んだが、短編小説もオモシロかった。なかでも、ホームズやチャンドラーに対するオマージュ作品に驚いた。これだけビッグネームの作家が、同様のビッグネーム作品に対して模倣作(パスティーシュ)を試みているだなんて。ホームズの方は、相棒のワトスンが推理能力を発揮する、いつもと立場が逆転した推理小説。久しぶりにストレートな推理小説を読むと、謎解きの過程がシンプルに楽しい。チャンドラーの方は、オマージュというより、小説の作者と主人公の邂逅というメタ的展開を駆使して、いい意味でダラダラと作家稼業について語っており興味深かった。
野球エッセイは、著者の息子が参加したリトルリーグの大会に関するものだった。リトルリーグならではの視点で、子どもたちのメンタル面からくるプレーの質の変化について鋭く考察していた。チームメイトのキャラクター描写はさすが巨匠!という塩梅で、それを駆使した野球の試合の白熱っぷりと、息子のチームがいかに奇跡的だったか、熱を持って伝わってきた。日本の高校野球の刹那性に近いが、もっと不安定でどう転ぶか分からないムードがリトルリーグにはあることを知った。また、同じ地域に暮らすという共通点しかない中で育まれる友情の尊さもそこにあった。歳を取れば取るほど、関係性はたこつぼ化していく中、子どもの頃に世の中の雑多性を知っておくことは必要だと読んでいて改めて感じた。
スティーブン・キングは映画化されまくっているので、わざわざ小説で読む必要があるのかと躊躇する作家だったけど、これをきっかけに色々読んでみたい。
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