すべての、白いものたちの/ハン・ガン |
韓国文学を読みたいなと思って、その代表格であるハン・ガンによる本著を読んだ。小説と詩、散文の境界を漂うような繊細な作品だった。白をモチーフにするのは物語の定石だが、言葉を尽くして描かれた白の世界に魅了された。
三つの章から構成されており、それぞれの章はさらに細分化された文章の集積となっている。読み終えると全体像はなんとなく見えるが、そこに物語性を見出すというより、詩を読んでいる感覚に近かった。しかも、そのどれもが静謐で読書でしか得ることができない余韻があった。
白をテーマに、これほど多角的に描写できるのは、作家の鋭い洞察力があってこそだ。同じ白だとしても、そこにはグラデーションがある。単行本は複数の種類の紙で造本されており、物語の内容が物理的に表現されていることにアガった。
あとがきを読むと、私小説のようで実体験をベースに小説が書かれていることが伺える。白いものを見て考えたことが、まるで呟くように綴られており、心の奥深くに迫ってくる印象を受けた。それは、主人公の母が経験しら死産の具体的な描写に要因するのだろう。亡くなった子どもが生きたかもしれない人生を自分が生きているのだ、という業のようなものが全編に漂っていた。本著は一種の息抜きのように書かれたようなので、他の骨太な作品も読んでみたい。
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